西岡研介(にしおか・けんすけ)/1967年生まれ。神戸新聞社会部、噂の眞相、週刊文春などを経て、フリーランスの記者。『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(2007年)で、講談社ノンフィクション賞(撮影/写真部・小山幸佑)
西岡研介(にしおか・けんすけ)/1967年生まれ。神戸新聞社会部、噂の眞相、週刊文春などを経て、フリーランスの記者。『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(2007年)で、講談社ノンフィクション賞(撮影/写真部・小山幸佑)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

 西岡研介さんによる『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』JR各社の労使関係を描いたノンフィクション。JR東日本労組「3万5千人大量脱退」、「JR革マル」対「党革マル」の「内ゲバ」、JR北海道の社長2人と組合員の相次ぐ「謎の死」の真相に迫る。著者の西岡さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 前作『マングローブ』で、新左翼過激派の「革マル」とJR東日本とのいびつな関係をあぶり出した。それから12年、西岡研介さん(52)は再び筆を執った。書名の『トラジャ』とは、1987年の国鉄分割・民営化前後に、「職業革命家」として革マル派党中央に送り込まれた指導員のコードネームだ。

 西岡さんはまず、JR東の最大労働組合「東日本旅客鉄道労働組合」(JR東労組)の7割以上に当たる約3万5千人もの組合員が、2018年初頭から1年ほどの間に大量脱退した真相に迫る。

「会社側は全部読み切っていた。脱退する人数まで読み切っていたと思うんです」

 脱退は、春闘でスト権行使を通告してきたJR東労組に、当時の冨田哲郎社長(現会長)が「労使共同宣言」の失効を通告したことに端を発する。会社のこの強硬な態度が組合員たちの背中を押した、とされていた。だが西岡さんは、組合の弱体化はJR東労組の元会長で「JRの妖怪」と恐れられた松崎明氏が10年に病死したのを機に、水面下で周到に進められてきたと言う。

「人事制度の見直しに運転職場の再編。矢継ぎ早にJR東労組を弱体化させる施策を打つ。絵を描いたのが、平成採用の執行役員ら。彼らが綿密な計算をした」

 後半は、JR北海道とその最大の労働組合「JR北海道労組」との労使癒着と対立に軸を移す。

 11年から18年にかけ、JR北では異様な出来事が立て続けに起きる。2人の社長経験者の自死に元労組幹部の転落死。脱線事故やデータ記録改竄も相次いだ。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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