AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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自分がこの物語をつくる、という想い、葛藤、観客の目に触れることへの期待。近浦啓監督(42)の初長編作品「コンプリシティ/優しい共犯」には、圧倒的な力強さが宿る。
チェン・リャン(ルー・ユーライ)は中国から技能実習生として来日するが、劣悪な職場環境から逃げ出し、不法滞在者となる。名前を偽り仕事を求めた先で、寡黙な蕎麦職人、弘(藤竜也)に出会う。
来日していたベトナム人技能実習生が除草用のヤギを盗み、解体して食べた──。14年、そんなニュースを目にしたことが作品を撮るきっかけとなった。近浦監督は言う。
「スーパーに行けば、200円を出せば肉を買える時代に、なぜヤギを殺してまで食べなければいけなかったのか。その理由が僕にはわからなかったんです」
調べていくうちに、技能実習生を送り出す機関にも、受け入れる機関にも問題があるのかもしれない、ということがわかってきた。一時はドキュメンタリーを撮ろうとも考えた。けれど、次第に「これは劇映画になる」と感じるようになったという。
「技能実習生として来日した後、職場を逃げ出した、という何人かの方と話をするうちに見えてきたこと。それは語弊を恐れずに言えば“彼らは自分となんら変わらない”ということでした」
チェン・リャンは、母国で借金をしたため、来日を決める。だが、現実は思い描いていたものとはまったく違っていた。
「期待と現実のギャップ。それは誰しもが経験していくことであり、僕にも言えることです。けれど、それを乗り越えることで大人になっていく。テーマ自体は、削ぎ落とすことで色々な人に当てはまるんじゃないか、と」
主人公が弘と出会うように、逃げた先に思いがけない出会いがある。それもまた、私たちの人生に通じることだ。