12月15日、抗議行動中の市民に武装警官が催涙弾を撃ち込んだ模様を配信する「蘋果日報」の画面。取材中のメロディ記者(左端)が映り込んでいる(写真:蘋果日報提供)
12月15日、抗議行動中の市民に武装警官が催涙弾を撃ち込んだ模様を配信する「蘋果日報」の画面。取材中のメロディ記者(左端)が映り込んでいる(写真:蘋果日報提供)
翌16日の「蘋果日報」は、取材をしていた記者の顔面に武装警官がペッパースプレーを噴射する写真を1面に据えた(写真:蘋果日報提供)
翌16日の「蘋果日報」は、取材をしていた記者の顔面に武装警官がペッパースプレーを噴射する写真を1面に据えた(写真:蘋果日報提供)

 元日、香港で開かれたデモの参加者は主催者発表で100万人を超えた。混迷は続いているが、最前線でその瞬間を切り取るメディアに注目が集まっている。AERA 2020年1月20日号は、世界に騒乱を伝える舞台裏を取材した。

【写真】取材をしていた記者の顔面に武装警官がペッパースプレーを噴射した

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 香港では2019年6月以降、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や中国の習近平(シーチンピン)国家主席に対する市民の抗議行動が途切れることなく続いている。6500人を超す逮捕者を出しながらもこの動きは衰えを見せておらず、香港情勢は今年も世界の注目を集めることになるだろう。

 実は、警官による大規模な「若者狩り」のほかに、香港では街頭や地下鉄、ショッピングモールなどで、普通の市民が警官に襲われることが日常化している。そうした大小の襲撃情報を瞬時につかみ、現場に急行して取材する記者たちの活動が香港で人気を集めている。

 その代表的なメディアの一つが、大衆紙「蘋果日報(ひんかにっぽう)」(アップル・デイリー)だ。

 この新聞は1995年に創刊。その時から記者をしてきたKeung Wai Hong(キョンワイホン)さん(51)は、これまで社会・政治に関する記事を書いてきたが、19年6月の100万人デモを機に現場での撮影とライブ配信を担当することになった。それから7カ月以上、この部署にいる30人の同僚記者と共に、ほぼ毎日16~25時のシフトでビデオカメラを手にさまざまな現場に出ている。

「デモや集会などの現場ではたいてい催涙弾が撃ち込まれてくるので、ヘルメットと防毒マスクは必携。我々取材中の記者に弾が直撃することもよくあり、中には眼球を撃たれて失明した人もいます。実際、かなり危険ですが、香港のみならず世界中の人が視聴してくれているので、やりがいがあります」

 その蘋果日報の記者が撮っている動画に、ひときわ背が低くて若い女性記者が、ときどき映り込んでいる。

 彼女の名はMelody Wong(メロディウォン)さん。弱冠20歳の彼女は、香港中文大学でジャーナリズムを研究する学生。昨年5月にインターンとして非営利のオンラインニュースサイト「立場新聞(たちばしんぶん)」(スタンド・ニュース)に出入りするようになった。彼女は、その翌月から始まった100万人デモを皮切りにライブ配信を担い、8月以降は学生兼社員として働いてきた。10人いる同僚記者のうち5人が女性で、うち一人は暴力団が民主派の市民を襲っている現場を撮影中に殴打された。

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