ロック音楽の持つ本質的な魅力は何かと問われれば、私は迷わず野性味と答えるだろう。野放図なまでに豪快にメロディーに向かい、傍若無人スレスレに大胆に聴き手の心に問うようなメロディーを描いていく作業。もちろん、そこには演奏者としてのスキルやセンスも必要だろう。だが、もしそれらが不足していても、怒ったり笑ったりしながらありとあらゆる事象や感情を抱え込んでいく、グイと飲み込んでいく力があればいい。ロックの魅力とは、包容力と言い換えてもいい、とさえ思うのだ。
そんなロック音楽の持つ、タフでフィジカルな魅力を愚直に体現しているのがバンド・湯浅湾だ。約10年ぶりのニュー・アルバム「脈」を聴きながら、今、改めてそう感じている。
湯浅湾は、作詞作曲を手がける湯浅学(ボーカル、ギター)を中心として、松村正人(ベース)、牧野琢磨(ギター)、山口元輝(ドラム)に、今回のアルバムでは谷口雄(キーボード)がサポートメンバーとして加わった。興味深いのはメンバーの顔ぶれだ。リーダーの湯浅は故・遠藤賢司との交流などでも知られる音楽評論家で、その武骨な文体と豊かな表現力が人気だ。松村は、音楽関係の編集者として書籍やウェブなどで活躍中、牧野は「NRQ」というバンドで活動中のギタリストだ。山口は、ラッパー「Shing02」のバンドや、エミ・マイヤーのライヴなど、様々な場所で活動しているドラマーである。
最も若いのが、サポートメンバーの谷口だ。解散した「森は生きている」を経て現在は「1983」の一員として活動しながら、数々のアーティストの作品やライヴで鍵盤を担当している。先ごろは草なぎ剛のライヴ・メンバーの一人として注目を集めた。
60代の湯浅から30代前半の谷口まで世代の幅も広く、音楽的ルーツやバックボーンも様々。サークルなどでの出会いをきっかけに、何かと同世代同士が組む傾向にあるロック・バンドで、多彩なメンバーの組み合わせは、それだけでも十分はかりしれない可能性を感じさせる。
だが、湯浅湾の音楽は、そうした個々の違いを強引に表面化させたハイブリッドなものではない。むしろ、人生経験も過ごしてきた時代も異なる多様な顔ぶれのアクやクセを、全部まとめて引き受けてしまうようなおおらかなものだ。