18日の夜の集会で、支援者らを前に勝訴の報告をする伊藤詩織さん。伊藤さんは、ふいに襲いかかるトラウマから、自殺未遂をしたことも打ち明けた(撮影/編集部・野村昌二)
18日の夜の集会で、支援者らを前に勝訴の報告をする伊藤詩織さん。伊藤さんは、ふいに襲いかかるトラウマから、自殺未遂をしたことも打ち明けた(撮影/編集部・野村昌二)

 性暴力被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんが民事訴訟で勝訴した。刑事手続きでは「不起訴」となりながら、一転なぜ「勝訴」できたのか。AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号で、日本の性犯罪被害者を取り巻く深刻な現状が浮き彫りになった。

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「今日見えている景色は、本当に違います」

 性暴力被害を訴えた民事訴訟で勝訴したジャーナリストの伊藤詩織さん(30)は12月18日夜、都内で開かれた報告集会で200人近い支援者を前に喜びを語った。判決は、元TBS記者山口敬之氏(53)が「酩酊状態で意識がない伊藤さんに合意がないまま性行為に及んだ」と認定し、山口氏に330万円の支払いを命じた。伊藤さんの弁護を務める西廣陽子弁護士は言う。

「伊藤さんの真摯な姿勢と一貫した主張。それが、信用性が高いとして認められた」

 だが、今回の事案は刑事手続きでは「不起訴」となった。伊藤さんは、性暴力を受けた2015年4月、警視庁に準強姦容疑で被害届を出した。だが、東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分とし、伊藤さんは検察審査会に不服申し立てを行った。しかし17年9月、検察審査会も不起訴相当と議決。なぜ、民事訴訟では一転「勝訴」となったのか。

 性犯罪などの刑事事件に詳しい亀石倫子弁護士は、一般論として「刑事事件で不起訴になった事案でも、民事裁判で勝訴することがある」と語る。

「刑事裁判は、国民に対して国家が刑罰を科す場であるので、犯罪の成立要件を検察官が立証しなければならないが、合理的な疑いを差しはさむ余地がない程度にまで立証する必要があるためそのハードルが高い。しかし、民事訴訟の場合は、『不法行為』、すなわち『故意または過失によって、他人の権利・利益を侵害した』ことを証明できればよく、立証のハードルも刑事事件ほど高くない」

 民事で不法行為が認められた一方、刑事では何の罪もないとされることには違和感がある。

「もっとも本件は、刑事裁判で立証に失敗したわけではなく、検察が不起訴処分とした。民事裁判での事実認定を前提とすれば、検察の判断には疑問がある」(亀石弁護士)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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