昨季は4回転サルコーとループを封印し、「3種類4本」でのパーフェクトにこだわった。3月の世界選手権では、2人ともフリーで「3種類4本」の戦いとなり、完璧に演じたチェンが、323.42点で世界記録を更新。こう話した。
「結弦がいたから、ここまで強くなれました」
迎えた今季。2人の指標となったのは、チェンの世界記録だ。先に記録に近づいたのは羽生だった。スケートカナダのフリーで「3種類4本」を成功させ322点台をマーク。一方のチェンは、4種類を入れ替えながら試行錯誤し、GPシリーズ2戦連続で290点台だった。
「結弦との対戦となるGPファイナルでは、4回転5本を入れたいと思っていました。しかし5本を完璧に降りるためにはプログラム全体の力配分が難しい。一つ一つのジャンプでいかに体力や精神力を使わないかを突き詰めました」
GPファイナルのショートはチェンが首位発進。フリーの予定構成表を見て興奮したという。
「結弦も5本の4回転を予定していました。25歳になっても成長していく本当に神がかった存在です。結弦のジャンプ構成を見て勇気が湧きました」
会見では2人に対して「4回転6本は?」という質問がでた。チェンは答えた。
「それはないです。4回転ループは成功したことはありますが、踏み切りですっぽ抜けて尻餅をつくのが怖くて、練習しようとさえ思いません。結弦はケガをしてもループを跳び続けているので勇気がありますよね」
すると隣の羽生が答える。
「僕はもちろん4回転アクセルに挑戦するつもりですし、いつの日か、6種類全部の4回転をやることが夢です」
チェンは笑って言う。
「やっぱり結弦は、永遠に僕の理想です」
(ライター・野口美恵)
※AERA 2019年12月23日号