桑島医師が2005年に東京都の職員265人を対象に行った調査によると、健診のときに正常値だった人の23%が職場高血圧だったという。血圧は一定のものではなく、刻々と変化している。職場を出れば正常値に戻るならよいと思いがちだが、そうではない。仮面高血圧の人は、正常な血圧値の人と比べて、血管病になる可能性が1.62倍も高いというデータもある。職場高血圧になりやすい人の特徴には、(1)中高年男性(2)喫煙者(3)メタボ気味(4)親きょうだいが高血圧などがある。高い要求をされるのに決定権がない人にも多い。

 前出の女性も、職場のストレスは、自覚していた。国内営業の部署なので得意の語学を生かせず、直属の上司との相性も悪い。社内恋愛中だった男性と一昨年別れたが、彼は今、自分と同じ部署の女性と付き合っていると聞き、その女性の顔を見るのがつらい。

 だが、非正規の職を転々とした後に、ようやく手に入れた正社員の地位だ。不満はあるが、手放すつもりはない。医師にそう伝えると、「自分の血圧パターンを知って仕事のリズムやパターンを変えるように」とアドバイスされた。

 女性の場合、トラブル処理などが立て込む午前中の血圧が高く、150mmHgを超えることも多い。夕方以降は職場にいても、正常値の範囲内になる。そこで午前中に余裕を持つために、できることは前日の午後に済ませるようにした。イライラしたら、心を落ち着かせて深呼吸する。気分転換のためにも、昼休みは外に出ることにした。

 考え方も変えるようにした。来年は五輪があるから、国内営業でも語学を生かす機会があるかもしれない。苦手な上司は異動する可能性もある。元彼を気にするより、新しい相手を見つけたほうがいい。些細なイライラで体を壊すのはバカバカしい。

「前向きに考えるようにしたことが、血圧の安定に一番効果があった気がします。今は上の血圧が140mmHgを超えることはめったになくなりました」

 診察室では発見できない高血圧は、他にもある。たとえば、夜間就寝中に血圧が上がる夜間高血圧。睡眠中は起きているときよりも10~20%ほど血圧が低くなるのが普通だが、ストレスなどで自律神経が乱れると寝ている間も血圧が下がらず、昼間より高くなってしまうことがある。毎日7時間前後高血圧にさらされるため、血管へのダメージも大きい。起床後1~2時間の血圧が高い早朝高血圧もある。朝に血圧が上がるのは普通だが、動脈硬化で血管が硬くなっていると上昇が極端になり、脳卒中や心筋梗塞につながることもある。注意が必要だ。まずは自分の血圧パターンを知ることが大切だ。

 血圧計はカフ(腕帯)を上腕に巻く上腕式がもっとも正確と言われているが、最近は手首式など、ウェアラブルの血圧計が数多く発売されている。自分の血圧の傾向を知るためには有効だ。(編集部・小長光哲郎、ライター・谷わこ)

AERA 2019年12月23日号