また、非営利組織のはずのEIMOは賛助会員入会を呼びかけており、10万円から300万円まで4種類の会費を設定。最高額の年間300万円の「特定賛助会費」を支払うと、JePが所有するデータなど、蓄積した情報を活用できると定めている。さらに、JePの活用方法について教員と保護者向けには3万円、生徒向けには1万円の「研修料」を払えば講師を派遣するという。

 では、実際にJePが蓄積する「学びのデータ」はどのようなものか。大項目は「探究活動」「生徒会・委員会」「学校行事」「部活動」「学校以外の活動」「留学・海外経験」「表彰・顕彰」「資格・検定」と8分類され、その下に中分類として72項目、さらに小分類は769項目にも及ぶ。

 部活動なら文化芸術活動やスポーツ活動に分けられ、それぞれ基本情報やコンクール・大会・試合の結果、代表への選抜履歴、段・級位の取得等、ベスト記録・通算記録、役職の履歴、掲載された記事などに分類される。「大会・試合の結果」の項目を進んでいくと、「参加前の気持ち」の記述を求められる欄もある。

「留学・海外経験」は「一年超」「一年」「6カ月以上」と期間を目安にした評価を例示している。

 これら生徒一人一人のデータを選抜する側の大学が点数化し、共通テストや2次試験と組み合わせて判定に利用する。何の項目を重視してスコア化に反映するかは、各大学や学部の「求める人材」による。しかし、前出のシンポジウムでも、「公平性が阻害されるのではないか」「格差や差別を助長し、固定化する危険性があるのではないか」などの意見が相次いだ。

「東京医大が女性ということを理由に不当に低く採点していたように、スポーツ活動を評価対象にすれば、男子に比べて運動部参加率が半分以下の女性を排除できます。また、寄付金の拠出や奨学金の削減を意図して裕福な家庭の学生を増やそうと考えた場合、留学・海外経験や資格・検定などの評価比率を上げれば、必然的に裕福な家庭の学生が有利になるでしょう」

 前出の高校教諭は懸念を示し、こう続けた。

「eポートフォリオについて、生徒たちの大半は面倒くさがっている印象ですが、中には気にしすぎて『交換留学生のホストファミリーに手を挙げれば点数が上がりますか』なんて相談しにくる子もいます」

 これらの懸念について、JePの開発に中心的に携わった関西学院大学学長特命アドミッションオフィサー、尾木義久氏は本誌の取材にこう答えた。

「JePは地道な活動を事実として記録し、本人が節目節目で我が身を振り返れるような鏡として作ったもので、入試のための評価ありきではありません」

 例えば、大項目の「探究活動」は、すでに各高校で手書きなどで実施しているものを、スマホやタブレットからアクセスできる仕組みにしたものだという。

 ベネッセのIDとパスワードによる発番システムを借りてスタートしたのも、大学側からの「なりすましは困る」という要望に基づいたもので、サーバーはEIMOで厳重に管理し、ベネッセが閲覧できる情報は一切ないという。発番システム自体も、再来年をめどに独自に開発を進めていく方針だ。

「皆さんの懸念や不安は、ほとんどが誤解に基づくものだと考えており、検討プロセスからすべてオープンにして払拭に努めたい」(尾木氏)

 JePには10月末現在で、全国1365高校がアクセス、12万5343人の生徒が「主体的活動」を記録している。主体性評価とは何なのか、一般選抜の入試に組み込むことは妥当なのか、今後、議論を深めていく必要がある。(編集部・大平誠)

AERA 2019年12月16日号