愛知医科大学産婦人科の若槻明彦教授によると、HRTは大腸がんや、胃がん、食道がんなどのリスクを低下させる効果も報告されているという。更年期以降の健康維持のためにも治療の有力な選択肢と言えるだろう。

 30代でまだ更年期ではないが、更年期同様の症状が見られる人もいる。例えば、「冷えのぼせ」がつらいという検査技師の女性(32)の場合、症状が出始めたのは30歳から。冷房が利いた部屋でも首から上は汗が噴き出す一方、手足は氷のように冷たい。検査のために患者さんに触れる時は、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 イライラもひどくなり、以前なら同僚の気が利かなくても「私がやればいいや」とおおらかでいられたのに、最近は「ちぇっ」と舌打ちしながらこれ見よがしにやってしまうことも。

 この女性は医師からピルの服用を勧められた。ピルはHRTと同じホルモン剤。経口避妊薬として知られるが、実は更年期と似た症状の改善にも有効だ。ただ女性は以前、月経不順で処方されたピルで強い吐き気に襲われた経験があり、今回、服用には二の足を踏んでいる。そうしたケースについて、「よしの女性診療所」の吉野一枝医師はこうアドバイスする。

「胃薬や吐き気止め、漢方などと併用するとか、半錠から始める方法もあります。ピルを使い慣れて微調整ができる医師に相談してみてください」

 更年期障害には漢方療法もある。主に使われる「婦人科3大漢方薬」による治療は、「HRTと効果について有意な差はない」という報告も。西洋医学では治療法がないような慢性的な痛みやイライラといった症状に効果的とされる。

 前出の望月医師は、「多彩な症状を呈する更年期障害に漢方が効くケースは多い」と話す。特に「イライラして腰も痛い」というように、心身の複数の症状が同時に出るケースには有効だという。

 3大漢方薬の使いわけは、東京都千代田区の若草漢方薬局の店主で管理薬剤師の吉田淳子さんによると、

「仕事が多くて頭痛や冷えがあるという症状なら、加味逍遥散(かみしょうようさん)。ストレスが原因の症状に効く他、幅広い人に使える」

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