■地元の名店の食を堪能

 観光列車の旅は五感が喜ぶ。まず視覚。絶景のオーシャンビューや、その土地ならではの景観。時に観光名所も車窓から見ることができる。軽井沢─長野間を走る「ろくもん」からは「日本100名城」の一つ、上田城が見える。聴覚は心地よい電車の走行音。クルーやガイドの解説も楽しい。嗅覚、味覚は食事だ。その土地の風景を車窓から眺めながら食するのは、最高の贅沢だ。

 観光列車では沿線地域の名店とコラボしていることも多い。観光客の一見さんではハードルが高くてなかなか行けない地方の名店の料理がリーズナブルにいただけることもある。10月に運行を開始した新潟─酒田間を走る「海里」では、山形県鶴岡市のレストラン「アル・ケッチァーノ」のシェフ奥田政行さんがメニューを監修している。

 そして触覚。この場合の触覚は「心の触れあい」だ。駅員の見送りや沿線住民の笑顔。お年寄りや子どもたちまで、まるで列車通過を待ち構えているかのようだ。ただの一旅行者なのに、まるでセレブのような歓迎だ。八戸─久慈間を走る「TOHOKU EMOTION」では、沿線の岩手県洋野(ひろの)町の住民が手や大漁旗を振って見送ってくれる。こういった例は枚挙にいとまがないが、なぜここまでしてくれるのか。JR東日本鉄道事業本部営業部輸送戦略グループの成瀬宏孝課長は、こう説明する。

「洋野町でのお出迎えは、地域の皆さまの自主的な活動として、5年以上も継続いただき、今ではこの列車になくてはならない魅力の一つになっています」

 同社が昨年出した「変革2027」というグループ経営ビジョンの中でも「地方を豊かに」というテーマを掲げている。

「当社の経営資源の一つである首都圏にお住まいのお客さまに、いかにして当社管内、特に東北や上信越エリアを旅していただけるか。『のってたのしい列車』は車両そのものの魅力に加えて、その地域を知っていただく機会に価値があると考えています」

■地域の魅力をパック

 観光列車はいまや絶景スポット、食、陶芸や織物といった工芸文化など、地域の魅力をパッケージして発信する発信源になっている。

 そのJR東日本は来春のダイヤ改正にあわせて「サフィール踊り子」という新しい観光特急列車の運行を予定している。個室のほか飲食物を販売するカフェテリアを設け、ヌードル(麺)や地元の食を提供する。同グループの中村圭助副課長が言う。

「海外からのお客さまが増える中で、チャレンジングなのはヌードルの提供です。日本の麺文化が海外にも広がっているので、快適な旅のお供に、と考えました」

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