新車両はデビュー時が一番華やかだが、その後いかに車内サービスを含めて陳腐化させないかが重要だと言う。

「そのためには、常に手をかけて愛情を注がないと、列車がお客さまから離れていってしまう。地域の皆様とともに列車を育てていくことが大事だと考えています」(前出の成瀬課長)

 個性的、かつ趣向を凝らした観光列車は全国各地を走っている。存分に楽しむコツを「旅と鉄道」の真柄智充(まがらともみち)編集長(46)に聞いた。

「座席の予約時に、どちら側の車窓の景色を見たいかという下調べをしておく。列車からの風景の見どころを逃さないことを意識しておくといいです」

 人気が高く、なかなか予約が取れない場合、往路ではなく復路を観光列車にする手もある。

「たとえば都心と埼玉・秩父を結ぶ『52席の至福』だと、池袋発より秩父発の方が予約しやすい。この列車を予約するとその日1日西武線が乗り放題になるので、それを利用して往路は特急(特急料金は別途)や急行で行く。そして秩父観光をして復路の観光列車の中でディナーをとる。旅のクライマックスをどこに持っていくかです」

■ついに北海道デビュー

 百花繚乱の観光列車だが、空白地域がある。北海道だ。雄大な自然と国内で他にはない景観、食やスイーツ、さまざまな観光資源に恵まれ、かつては鉄道王国と言われた北海道だが、豊富な資源を生かしきれていないと言われている。しかし2020年8月、ついに水戸岡デザインの観光列車が北の大地を疾走する。「ザ・ロイヤルエクスプレス」が「THE ROYAL EXPRESS~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」として北海道内で運行することが発表されたのだ。

 今回のプロジェクトの背景には、18年7月に国土交通省が経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう、JR北海道に監督命令を出したことがある。その取り組みとして「インバウンド観光客を取り込む観光列車の充実」が位置づけられていたことから、JR北海道は観光列車を保有している道外事業者に対して、道内への持ち込み・期間限定運行ができないか協力を要請。それに東急が応える形で運行が実現することになった。

 課題もある。JR北海道が運営する路線の約8割が非電化路線だが、「ザ・ロイヤルエクスプレス」は非電化区間を走行できる仕様にはなっていない。検討の結果、東急が電源車を購入し、JR北海道のディーゼル機関車で牽引する方式で走行する形で実現することとなったが、前出の松田高広統括部長はこう話す。

「日本の鉄道で前例の無いプロジェクトが、JR北海道様の想いをもとに、JR東日本様、JR貨物様のご協力で実現しました。鉄道事業各社様や各パートナー様、地域の皆様とともに、クルーをはじめ私ども一同で素晴らしい旅をつくっていきたいと思います」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年12月2日号より抜粋