そんな中村さんオススメの日本ワインとつまみを、今回は6セット用意してもらった。さあ。しみじみいたしましょう。

 オープニングは、本の白、「菊鹿(きっか)」と煎ったぎんなんの登場だ。ワインは木樽で熟成させるタイプのシャルドネで、樽の香ばしさもしっかり。両者の相乗効果で、ぎんなんのあくやえぐみが、おいしさに変わる。

 続いて「北海道中央葡萄酒」のピノノワール。なぜか「出汁のようなニュアンス」があるピノノワールと味噌や醤油は、同じ発酵食品で相性抜群。根菜のきんぴらとは、「あなたたち、もしや前世でも夫婦?」と疑うほど。

 一方、「フジッコワイナリー」のフジクレール マスカット・ベーリーA ラシスは、「完熟葡萄がとれたときしか造らない」という贅沢なワイン。

「あるとき、搾りたてのマスカット・ベーリーAから、サツマイモに似た香りを感じたことがあった。以来、サツマイモの旬には毎年大学芋を作るんですよ」

 続く、ドメイヌソガ・サンシミ2013の「小布施ワイナリー」は、中村さんに起業を決意させたワイナリーの一つだ。

「例えば樽の澱を取り除く作業は、3回ほどやるのが普通。ところがこの醸造家の方は1回で終える技術を持っている。空気に触れる機会が減って、高品質のワインができあがります」

 それを女将自慢の国産すね肉の赤ワイン煮込みで迎え撃つ。煮込みにさまざまな赤ワインを使っているが、「甘みが増してしまう」マスカット・ベーリーAのワインだけは控えめ。海外種のワインのほうが、より相性がいいという。隠し味は味噌。日本の風土を思い起こす、独特なマリアージュが楽しい。

 最後は2種のアワ。シャルドネを主体に14種類のぶどうを使い、シャンパンと同じ手のかかる製法で作り上げたという「丹波鳥居野」のTraditional 2013は、ふろふき大根の肉味噌がけをアテに。「グレープリパブリック」の自然派ワインDela Fresca Frizzante 2018には、いぶりがっことクリームチーズが絶好のパートナーだ。

「『原材料はぶどう。以上!』というのが、このワイナリーの自然派ワイン。ドライな作りのなかにも自然派ワインならではの野暮ったさがあり、いぶりがっこの塩味と合います」

 醸造家も飲み手も、同じ空気を吸って、同じ風味を感じる舌で育んできた日本ワイン。ただの飲み助じゃない。日本ワインを育てるための一杯を、ぜひ。(ライター・福光恵)

AERA 2019年12月2日号