皇后雅子さまは即位パレードで終始笑みを絶やさず、沿道からの歓声にオープンカーから手を振って応えた/11月10日、赤坂御所前で(撮影/写真部・小山幸佑)
皇后雅子さまは即位パレードで終始笑みを絶やさず、沿道からの歓声にオープンカーから手を振って応えた/11月10日、赤坂御所前で(撮影/写真部・小山幸佑)

 令和の「祝賀御列の儀」は、スマホであふれていた。思い切り高く掲げ、車列を待つ人、人、人。そこに、皇后雅子さまと『ベルばら』を結ぶ点と線を見た。AERA 2019年11月25日号に掲載された記事を紹介する。

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 パレードが続いた30分余りの間、皇后雅子さま(55)は輝くような笑顔だった。そして時折、涙ぐんだ。その様子を見て、こんなふうに思った。

 雅子さまは、マリア・テレジアの教えを実感したに違いない。

 オーストリアの女帝マリア・テレジアは18世紀を生きた人だ。だからこれは、当たり前だが妄想だ。妄想のわけを、書いていく。

 テレジアは、末娘マリー・アントワネットをわずか14歳でフランス王太子に嫁がせる。勉強嫌いで人に影響されやすい末娘を案じ、テレジアは手紙を送っては「地位ある者の振る舞い方」を説いた。

 その手紙を『マリー・アントワネットとマリア・テレジア 秘密の往復書簡』(岩波書店)で読んだ私は、テレジアの教えをこう理解した。

 あなたはあなたでいるだけで尊い存在、と。だから、ただ優しさを示せばよい。そうテレジアは説いていた。

 パレードを見ながら、雅子さまに重ねた。「自分は自分でいるだけでよい」。雅子さまはそう実感したのだ、と勝手に納得した。

 約11万9千人もの人が集まったというパレード。人々は天皇陛下(59)の即位と、雅子さまが皇后になったことへの喜びを感じ沿道に並んだ。彼らの喜びを、雅子さまは強く実感できた。それだけでなく、その実感が自分自身の喜びになった。自分は自分でいるだけでよいのだと思えた。だから笑顔になり、時に涙になった。そう解釈した。

 本を読んだだけで、なぜそのような妄想をするのかと問われたら、答えは一つ。日本に「ベルばら」があるから。そう、私はベルばら世代なのだ。

 池田理代子さんによる漫画『ベルサイユのばら』(集英社)は1972年から「週刊マーガレット」に連載され、74年に宝塚歌劇団が上演したことで空前のブームとなった。リアルタイムで漫画を読み、宝塚劇場に足を運んだ一人だから、その世界が体に染み込んでいる。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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