『秘密の往復書簡』に話を戻すと、テレジアは「妻としてのあり方」についてもしばしば触れている。

 嫁いで最初の手紙では「妻は何ごとにつけても夫に従い、ひたすら夫に気に入られるように、そして夫の意志が成就するように」努力すればよい、と書いている(1770年5月4日)。だが、単純な「夫ファースト」でないところが、テレジアのテレジアたるゆえんだ。

 アントワネットが王妃になって出した2通目の手紙ではこういう表現をしている。

「国王陛下の生涯の友であり、そのもっとも信頼を寄せる相手としてのあなた、また陛下の幸せのみを心に掛けている女性、その全幅の信頼に値する女性としてのあなたに申し上げます」(1774年5月30日)

 次の手紙では、前の手紙で勧めたことをよく考えてくれと書き、こう続けている。「陛下の女友だちにして無二の親友になるよう努める、という件です」(同年6月16日)

 陛下と雅子さまは、パレード中、何度か言葉を交わしているように見えた。あの日に限らず、お二人が目を合わせ言葉を交わしている様子は折々に見られる。

 上皇さま(85)と上皇后美智子さま(85)もよく言葉を交わしていた。だが、陛下と雅子さまが会話をする雰囲気は、上皇さまと美智子さまのそれと少し違う。陛下と雅子さまの雰囲気を表す言葉が見つかっていなかった。

「無二の親友」は、かなり適切な表現ではないだろうか。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2019年11月25日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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