ISは15年には、日本人フリージャーナリストの後藤健二さんと会社経営者の湯川遥菜さんを人質にし、殺害。その様子をネット上に公開した。このようにISは外国人らを人質にし、殺害する映像を公開し、性奴隷にするなど、歴史上類を見ない残虐さで世界を恐怖に陥れた。それを主導したのがバグダディ容疑者だ。

 同容疑者は預言者ムハンマドの後継者「カリフ」を自称。オバマ前大統領が米軍のイラクからの全面撤退を行った後の14年、シリアとイラク西部にまたがる地域にイスラムの「カリフ制国家」を創設した。米軍が主導した有志連合の監視がないと、新たなテロ組織が台頭することを見せつけたわけだ。

 WSJなどによると、バグダディ容疑者の潜伏先を突き止められたのは、拘束したIS戦闘員に対する尋問や、米軍とその有志連合がシリアやイラクで行ってきた情報活動が、功を奏したからだという。米国と同盟関係にあるクルド人民兵組織でシリアに展開するシリア民主軍司令官は、「現地で5カ月間、情報協力をした」と得意げにツイートした。

 ところが、トランプ大統領は、バグダディ容疑者への急襲に先立ち10月上旬、シリア北部からの米軍撤退を宣言した。これに対し猛烈な批判が起き、米下院は、米軍撤退に反対する決議案を、354対60の賛成多数で可決した。野党・民主党は235議席。トランプ大統領率いる共和党の約3分の2が造反したことになる。トランプ大統領就任以来、初めてのことだ。

 今回のクルド人、米軍、有志連合との連携が導いたバグダディ容疑者殺害を考えると、共和党議員の造反は正しかった。

 米国務省は、バグダディ容疑者の死亡を受けて、ISを一掃するため、有志連合や地元との連携を強化するとしている。

 殺害を報じたWSJは、「シリアからの撤収について再考すべきだ」と「教訓」を強調し、コラムを締めくくっている。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2019年11月11日号