限られた脳のリソースを有効活用するためにできるだけ避けたいのは、マルチタスクだ。書類を整理しているとメールの受信通知が届き、書類そっちのけで返信。返信を書いている途中で上司に呼ばれ、席に戻ってきたときにはさっきまで何をやっていたのかすら、思い出せない──。そんな経験がある人は多いだろう。忙しいときは色々な仕事を同時にこなしたくなる。だが、人間は厳密には複数の作業を同時並行で進めることはできず、マルチタスクはいくつかのタスクを素早く切り替えているに過ぎない。

「タスクの切り替え時はアイドリングタイムが生まれるし、意思決定を要するので前頭前野も疲弊する。脳のメモリー機能がいっぱいになりがちです」(脳神経科学者、枝川義邦・早稲田大学教授)

 切り替えが頻繁に行われると、脳内にストレスホルモンの一種であるコルチゾールがたまっていく。特に、小さな画面に多数の情報があるスマートフォンはマルチタスクになりやすく、使い過ぎると知らず知らずのうちに脳が疲弊してしまう。すると、物覚えが悪くなる、単純ミスが増える、感情が抑えられず怒りっぽくなるなどの状態になるという。

「マルチタスクを続けるとIQが10程度低くなることや、学習能力に支障をきたすことも報告されています」(同)

 一つの仕事を終わらせてから取り掛かるほうが、効率もよく、脳の負担も少ないようだ。

 また、座ったままでいるよりも、1時間座ったら5分程度歩くなど大きな筋肉を動かすと、脳の血流がよくなるという。(編集部・川口穣、ライター・谷わこ)

AERA 2019年11月11日号