シャムキャッツの音楽は極めてプレーンな歌ものギター・ロックだ。親しみやすい歌とメロディー、ハーモニーを持ち、ギミックのないシンプルな演奏でフレンドリーかつエネルギッシュに聴かせる。それは、彼らの作品に対して近年しばしば用いられる「プレーン」という言葉がピタリとあてはまるほどに、シンプルであっさりしたもので、極端に言えばスピッツが今なお世代を超えて多くのリスナーに愛されているような普遍性を持っているということだ。

 もちろん、それでもバンドは成長する。4人というコミュニティーの中で変わらずにいても、それぞれ思惑があり、時にはそれがぶつかることもあるだろう。だが、彼らはそれを幼少時からの長い時間をかけて、信頼という言葉のもとに理解しあいながら一つずつ駒を進めてきた。

 10周年の今年、11月6日にリリースする5曲入りの「はなたば」という作品は、相変わらずそんな4人がそれぞれに変化し成長していることを伝える重要な1枚だ。

 メイン・ソングライターの夏目が書いた「おくまんこうねん」「かわいいコックさん」「はなたば~セールスマンの失恋~」は、夏目が少ない言葉、簡単な単語で意味のある風景、心象を伝えていくことにトライした、バンドにとって大きな起点となる3曲。菅原が書いた2曲「Catcher」と「我来了(ウォーライラ)」……わけても「我来了(ウォーライラ)」は、近年アジアのポップ音楽に魅せられている菅原の情熱と、ダンス・ミュージックと歌ものとを合流させようとする試行錯誤が結実した重要曲だ。

 しかも、この「はなたば」という作品をプロデュースしたのが、彼らがデビュー当時から共闘してきた仲間であり、自身シンガー・ソングライターとしても活動する同世代の王舟(おうしゅう)という事実。バンドとして歩みを新たにしてからの友人も“ファミリー”として迎えるこの包容力が、これからのシャムキャッツをさらに次のステージへと導くだろうことは想像に難くない。

 シャムキャッツは自分たちでレーベル「TETRA RECORDS(テトラ・レコーズ)」を運営し、ツアーも組み、時にはオリジナル・グッズを販売するポップアップ・ショップも開いてファンやリスナーと直接交流したりもする。

 そんな彼らを見ていると、「プレーン」という言葉がその音楽にだけ充てられるのではなく、旧くからの友達や仲間とともに歩んでいくことの、あまりにもささやかな、でもあまりにも尊い日常にも充てられるのではないかと思うのだ。それこそが彼らの音楽家としての哲学なのではないか?と。

 いつのまにか日本中に愛されるバンドとなったスピッツがそうであるように、このシャムキャッツもさりげなくずっと愛される存在として活動していくことになるだろう。10年はたまたまの通過点。シャムキャッツの日常という名のポップ・ミュージックの歴史はこれからも続いていく。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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