クリスマスイブに彼がやりたいことは野球がうまくなることだった。それこそ価値観。そこを育ててあげなくてはいけない」

 先ごろ刊行された『栗山ノート』(光文社)で、「順番としては人を生かすことが先で、その次に野球がある」と記している。戦術を練り、選手を選んで組織をオーガナイズする監督業でありながら、栗山は人材育成にも注力する。論語や書経、易経などから得たヒントを長年ノートに綴ってきた。

 論語に「性は相近し、習えば相遠し」という教えがある。人の性質は生まれたときはあまり差はないけれど、その後の習慣や教育によって次第に差が大きくなる、という意味だ。
「学びに終わりはなく、学び続けなければ成長はありません。成長とは自分が気持ちよく過ごすため、物欲や支配欲を満たすためなどでなく、自分の周りの人たちの笑顔を少しでも増やせるようにすること」と書いた。

「デジタル化やAIなどいろんなものが発展して便利になった。でも、人のなかにつくられる価値観には割り込めない。最後は人と人との心がぶつかり合わなければ、何も生みだせない。それを媒介する大きなものが言葉だと思う」と栗山は話す。

 今季はリーグ5位。退任やむなしと進退伺をしたが、負傷者が多かったことや過去の実績を認められ球団から慰留された。来季で監督9年目。連続在任年数では故大沢啓二を抜き球団最長になる。

「苦しみまくっている今が、一番成長できるとき。苦しめば苦しむほど見えてくるものがある。結果を残そうと懸命にやってくれている選手たちと、成長していきたい」

(文中敬称略)(ライター・島沢優子)

AERA 2019年11月4日号