弟は「尊敬する選手は谷川航」と公言する。「中学の時は、出来次第では僕が勝っちゃうくらいだったんですけど、高校に入ってお兄ちゃんが筋力をつけて、差をつけられた。『追いつきたい』と思っていた」

 兄は「ケガがなければ強い選手。高校時代もそんなに心配していなかった」と弟を見つめる。

「兄弟愛」の強さは自他ともに認めている。

 覚えている最後のケンカは航が小3、翔が小1のとき。家の中を追いかけ回された翔が、ひもをくくりつけたスプーンで航の頭をたたき、逆襲した。頭がぽっこりと腫れた。当然のごとく、母にしかられた。2人が笑って振り返る「スプーン事件」の後は、「覚えているほど大きなケンカはしていない」という。

 体操選手としての特徴は違う。航は筋力が強く、瞬発力も高い。跳馬で最高難度の大技「リ・セガン2」を跳ぶほか、つり輪も得意だ。翔は股関節などの柔軟性に優れ、美しい開脚旋回で魅了する。あん馬やゆかで他の選手を引き離す。

 ただ、やはり兄弟だからなのか、互いのアドバイスが一番、感覚的に合うという。最近も航が翔に跳馬の手の付き方を、翔が航にゆかのひねり技のコツを助言した。

「言いやすいんですよね、お互いに。何を言ってもいいというか。違ったら、その考えは捨てればいいだけ。『こういう案もあるよ』って」

 そう話す翔はどこか、うれしそうでもある。ライバルでもあるはずなのに、なぜそんなに仲が良いのか。その理由を航が説明してくれた。

「同じ環境で練習していたら、お互いに教え合うじゃないですか。協力してというか。誰が誰にでもアドバイスできる環境。特に順大はそう。そういう中で、仲が悪かったらうまくなっていけない。せっかく2人とも強いんだから、色々教え合って、自然と仲良くなっちゃう」

 なるほど、体操が2人の絆を強くしているのだ。

 2人が「神」という同じ表現で尊敬する内村航平が抜けた今年の世界選手権。日本をどう引っ張るのか。

次のページ