世界選手権へ向けた国内合宿で同部屋だった二人。しっかり者の兄・航が先に起き、ぎりぎりまで寝る翔を起こすこともあったそう(撮影/写真部・小黒冴夏)
世界選手権へ向けた国内合宿で同部屋だった二人。しっかり者の兄・航が先に起き、ぎりぎりまで寝る翔を起こすこともあったそう(撮影/写真部・小黒冴夏)

 ドイツ・シュツットガルトで10月7日に開幕する体操世界選手権に、日本は内村航平、白井健三両選手を欠いた状態で臨む。そんな中、日本代表として存在感を示しているのが谷川航(わたる)・翔(かける)の谷川兄弟だ。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。

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 1位が弟の翔、2位が兄の航。今年5月のNHK杯で日本のトップ2を独占し、世界選手権代表を決めたのが、谷川兄弟だ。

 兄弟で1、2位になったことについて、「すごい感動したし、『よっしゃー』っていううれしさがあった」と航が言えば、翔は「実力はあっても、なかなかできることではない。終わってみて、すごいなと思いました」と笑う。

 翔にとっては「リベンジ」の舞台だった。昨年は4月の全日本選手権を史上最年少の19歳2カ月で制したが、その得点を持ち越して戦う5月のNHK杯では、プレッシャーに負けた。鉄棒で落下するなど順位を落とし、世界選手権の代表を逃した。全日本を連覇した今年は、「NHK杯という言葉に怖さがあった」と言いながらも、その重圧に打ち勝ち、表彰台で涙を流した。航は今年の全日本では5位に沈んだが、NHK杯では出場選手中唯一の85点台を出し、順位を三つ上げた。

 この春に順天堂大を卒業した兄と、2学年下の弟。航が体操を本格的に始めた小学校1年生から中学まで、基礎をたたき込んでくれたのは、地元の千葉県船橋市の健伸スポーツクラブ。その後は市船橋高、順大と、2人は、時に競い合うように体操と向き合ってきた。

 船橋市立法典東小の卒業式で、航は「僕の夢は体操でオリンピックに出て金メダルを取ることです」と宣言した。2年後には翔も「僕の夢は体操でオリンピックに出てメダルを取ることです」と続いた。

 航は体操にも勉強にも黙々と取り組み、着実に力をつけ、高校3年で高校総体の個人総合を制した。天真爛漫な翔は中学3年で全国優勝したが、高校時代は度重なるケガに苦しんだ。

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