「世の中にはLGBTへの偏見がありますが、堂々と幸せに生きています。中学のときに少し悩んだことがありましたが、10代のときにレズビアンであることを母親に告白したときも『そうだと思っていた。いいんじゃない』と言われ、家でも何の問題にもなりません」と響さんは明るく言う。

 精子の運動率ではなく、そのほかのファクターが重要になるケースもある。卵子に直接精子を注入する、顕微授精を行う場合がそうだ。

 会社員の玲子さん(39)が子どもを授かりたいと思ったのは、37歳の頃。夫は1歳年上のエンジニアだ。

「私の体を検査したら、卵管がつまっているとわかったので、最初から体外受精が選択肢になりました」(玲子さん)

男性の100人に1人が無精子症といわれる。玲子さんの夫も無精子症と告知された。男性不妊の専門医を紹介され、そこでTESE(精巣内精子採取術)を実施した。精子が1匹でも見つかれば、顕微授精をすることができる。だが、精子は見つからなかった。夫はそこまでショックを受けているようには見えなかったという。

 玲子さん夫婦の場合、精子バンクについて言及したのは夫の方だった。

 国内のクリニックに相談すると、医師はドナー情報の秘匿を条件に、提供精子で体外受精を行った。

 昨年、無事第1子が誕生した。

「体外受精にあたって、5個採れた私の卵子から4個の受精卵ができました。きょうだいがいた方がいいと思い、医師に相談すると、クリオスを教えてもらいました。そのクリニックはクリオスを使ったこともあるそうです」(同)

 クリオスは、デンマークだけでなく、アメリカのフロリダにも精子バンクを持っている。顕微授精では精子の運動率を優先する必要はないため、重視したのはドナーの「血」だ。

「日本人の血が入っているかどうか。数人見つかりましたが、フロリダの方の男性の精子を選びました。五つの人種が入っていましたが、子どものときの写真をみると日本人色が強かったので、そのドナーにしました」(同)

(ジャーナリスト・大野和基)

AERA 2019年9月16日号より抜粋