文武両道という建学の精神を重んじる慶應。だが出場を争う新興校は箱根駅伝を大学広報の一環と位置づけ、強化に力を入れている。

「いまや箱根駅伝は大学スポーツの華。各大学のスカウティングも熱を帯びています。高校生の長距離ランナーはほぼ全員が箱根を走るのが夢であり目標ですので、確実に出場できる常連校を進学先に選びます」(川崎監督)

 ほぼ全国に生中継され、平均視聴率が30%近く。その宣伝効果は絶大だ。

「大学スポーツとしては本来、慶應さんの考えが正しいと思いますが、大学スポーツの域を超えて、スポーツ特待生などプロに近い形を取っている大学もあるのが現状です」(同)

 そんな中、慶應義塾大学体育会競走部は17年の創部100周年を機に「慶應箱根駅伝プロジェクト」を開始。湘南藤沢キャンパスに設立されたランニングデザイン・ラボとの連携など科学的アプローチでの選手強化や、一貫教育校との連携強化で再び箱根路を目指す。

 プロジェクト初年度の18年、関東学生連合の8区を根岸祐太選手(当時3年)が走った。第82回大会以来12年ぶりとなる慶應生の出場だった。日本体育大学や日清食品グループで実績のある体育会競走部の保科光作ヘッドコーチ(35)はこう語る。

「いまの所、強化は順調に進んでいます。根岸クラスの選手が4、5人は揃っている。選手には少なくともいまの2年生が4年生になったときに本選が狙えるよう、しっかりとチーム作りをしようと言っています」

 スポーツ推薦で選手を集めずに強化は可能なのか。慶應がチームとして出場した94年当時の競走部長距離部員であり、ランニングデザイン・ラボ代表の蟹江憲史教授(50)はこう語る。

「なかなか大変だというのが実感です。ただ、プロジェクトの初年度に入ってきたいまの2年生はAO入試や一貫校から進学した選手もいますが、ほとんどが一般入試組。いままではそこの掘り起こしができていなかったともいえます。文武両道は建学以来の精神。大学全体として守っていることなので、そこは大切にしていきたいと思っています」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年9月16日号