「関西セッチエストレーラス」を立ち上げた田中啓史さん(43)には忘れられない言葉がある。元チームメート・濱田正人さん(40)の「両腕があった自分より、今の両腕のない自分のほうが好きだ」という言葉だ。濱田さんは事故で両腕を切断し、一時は自殺を考えた。しかし、病室のドアを開けることすらできず、自力で死ぬこともできない……そんな絶望の中で出会ったアンプティサッカーが、濱田さんに生きる希望を与えた。田中さんは言う。

「僕もそう。今の自分のほうが好きです。もしあの事故の日に戻れたとしても、やっぱり右足のない人生を選ぶと思います。切断したからこそできた経験がたくさんあるし、世界が広がりましたから。もちろん、右足があったらあったでまた別にいいことが起こったのかもしれない。でも、それを上回るくらい仲間や機会に恵まれていて、今が充実してるんです」

 アンプティサッカーを始めるまでは、障がいがあるからできないよね、と言われたくなくて、人一倍頑張らなくては、自分でなんでもしなくてはと気負っていた時期もあった。けれど今は、チーム皆で支え合うことができる。だからこそ、もっと多くの人にアンプティサッカーの存在を知ってほしいと思っている。

「僕らのチームにもまだまだ選手が必要だし、まずはいろんな人に見に来てほしい。おもしろさを体感してもらえたらと思うし、手足に切断とかの障がいを持つ人って意外に普通なんだなと感じてもらえたらうれしいですね」

 障がいをかばうのではなく、自分が持つ身体の機能を最大限に生かす。そんなアンプティサッカーのプレースタイルは、選手たちの生き方にも通じている。(ライター・藤田幸恵)

AERA 2019年9月9日号より抜粋