稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
飲み物も冷たいものは避け、熱いお茶を常備。昔の大工さんは休憩時にこれをすすったという(写真:本人提供)
飲み物も冷たいものは避け、熱いお茶を常備。昔の大工さんは休憩時にこれをすすったという(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 今年もなんだかんだと暑い夏であった。東京は、長く冷たい梅雨が一転してギラギラムシムシ攻撃となり、結局は熱中症注意が再び連呼される事態となったわけだが、そんな中「オリンピックまであと1年」のニュースが。つまりはこんな中でオリンピックっすか!

 熱中症対策といえば、屋外に出ず室内でエアコン使用というのが大定番だが、観客もそれと真逆の行動を取らねば成立しない世紀の大イベント。これはやはり大変なことだなあと考えていて、ふと気づいてしまったのである。

 今こそ私の出番ではないか。8年前から家でエアコンを使っていないということは、エアコンに頼らずとも熱中症に負けぬ身体を追求してきたとも言える。ようやくその成果が世間様のお役に立つ時が来たのだ。だが誰も助言を求めに来ない。勿体ないので勝手にアドバイスさせて頂く。

 この8年、実に色々なことを試してきた。床で寝ると涼しいとか、ハッカスプレーを浴びると僅かな風でもひんやりするとか、豆腐やキュウリなど体を冷やすものを食べるとか。どれも悪くはない。だがダントツに効果を感じたのは「汗をかくこと」である。

 今や我が猛暑日の楽しみといえば、熱~い銭湯に入った後に熱~い鍋を食すこと。この世のものとは思えぬ大汗をかくが、汗が引いた後「スッ」とする。この「スッ」ってえのが……クセになるねえ。憑き物が落ちるというか、超デトックス感覚。調べてみたらちゃんと科学的根拠もありまして、汗をかくことで体にこもった熱が外に逃がされるのだ。熱帯夜でもそこそこ涼しく眠れるのも納得である。

 こうして日頃から、体の熱を外に追い出す機能を鍛えておきましょうぞ各々方! 便利社会の中で縮こまっていた本来の自分の力を取り戻すのである。やってみればわかるが「おっ」と思う。「大丈夫だ」とも思う。生きる力みたいなものが自分にもちゃんとあったと驚く。

 それを実感する人が猛暑五輪を機に増えたなら、もう思い残すことはない私である。

AERA 2019年9月2日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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