「ずっと僕らを応援して支えてくれた釜石に恩返しできていないままでは地元に帰れない」

 釜石市のラグビーワールドカップ2019推進室職員に応募。人口3万3千人の小さなまちで世界3大スポーツイベントの成功に向け、駆け回ってきた。

 W杯に3大会出場した経験があり、W杯のアンバサダーも務める桜庭吉彦さん(52、釜石シーウェイブスゼネラルマネージャー)は「釜石でのW杯開催は、普通なら考えられないこと」と言う。

「小さな規模のまちでのW杯開催は過去にもありますが、被災地でまっさらな状態からスタジアムをつくることはハードルが高く、被災した市民のみなさんの気持ちがW杯開催に向くのだろうかという難しさもある。私自身も地元の人間として、はじめは誘致に葛藤もありました」

 鵜住居復興スタジアムはW杯が開かれる12都市で唯一新設されたスタジアムだ。総工費は仮設部分を含め49億円。正面入り口をくぐると木の香りが漂う。トイレやラウンジや、座席には17年5月に同市の尾崎半島で起きた山林火災の被害木を活用した。そのほか、東京ドームや旧国立競技場、本市の陸上競技場から寄贈された「絆シート」で、常設の6千席とW杯のために追加した仮設の1万席のほとんどをまかなっている。

 芝は国内で初採用されたハイブリッド天然芝。表面は天然芝だが根の部分にコルクやマイクロファイバーが敷かれ、完全天然芝ほど維持管理が難しくなくコンディションを保てるという。日本代表のリーチ・マイケル主将も「フラットでボコボコがない。日本一の芝」と絶賛した。

「それにこのスタジアムには震災を経験し、立ち上がろうとする釜石のみんなの思いが詰まっている。もし僕が選手だったら、ここでの戦いは一つひとつのプレーが変わる」(長田さん)

 その言葉通り、このスタジアムは日本代表に力を与えた。格上のフィジーを破った後、リーチ主将は「釜石の力がモチベーションとなり、(東日本大震災で)亡くなった方やサポートする方がたくさんいる中で勝利を届けられて良かった」と語った。

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