「賛否あるのは分かりますが、個人的には出てほしかったという思いもあります。選手の違和感に耳を傾け、けがにつながるものなのか、そうでないのかを見抜くことが大切と感じます」

 前出の増本さんは違う意見だ。

「人間の体は神様が四足歩行に作った体で、ボールを投げるように作られてはいないのでそれだけで体に負担がかかるのは当然。どんなに良い投げ方をしていても必ずどこかに炎症が起きて、一定レベルを超えると痛みが出る」と説明する。

 今回の佐々木投手の場合、7月16日の2回戦、18日の3回戦、21日の4回戦、24日の準決勝で登板。特に4回戦では194球、準決勝では129球を投げた。

「1日フルで投げたら、5日は空けたい。佐々木投手にはかわいそうだったが、彼の野球人生を考えた場合、決勝は休ませて当然の判断だった」(増本氏)

 一方で、「疲労」についてはこんな考え方もある。田園調布長田整形外科(東京)院長の長田夏哉さん(50)が言う。

「疲労感は、実は脳が作り出します。体にまだ余裕があっても、体を壊さないように事前に脳が疲労を感じる仕組みです」

 ところが、スポーツでは達成感や報酬欲求などによって、その疲労感が消えてしまうことがあるという。いわゆる“ランナーズハイ”の状態だ。

高校野球でも、周囲の期待や甲子園に向かってみんなで戦う高揚感が、疲れを忘れさせることがある。選手が一線を越え、けがをする原因になるので十分な注意が必要です」

 日本臨床スポーツ医学会学術委員会も、高校生なら全力投球数は1日100球以内、週500球を超えないこと、などと提言している。日本高野連も投手の障害予防に関する有識者会議を設けてようやく今年から本格的な検討が始まった。注目選手の登板回避問題を、議論を深めるきっかけにしたい。(編集部・小田健司)

AERA 2019年8月12日-19日合併増大号