岩手大会準決勝の一関工業戦、完封で決勝進出を決めた大船渡の佐々木朗希投手。これが大会最後の登板となった/盛岡市の岩手県営野球場 (c)朝日新聞社
岩手大会準決勝の一関工業戦、完封で決勝進出を決めた大船渡の佐々木朗希投手。これが大会最後の登板となった/盛岡市の岩手県営野球場 (c)朝日新聞社

 高校野球で史上最速の163キロを投げる高校生が、決勝のマウンドに立たず夏を終えた。監督の判断に賛否両論が巻き起こる中、医療関係者が医学的な視点からそれぞれの見解を示す。

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 7月25日の高校野球岩手県大会決勝。勝てば35年ぶりの甲子園という試合で、高校野球史上最速と言われる163キロの直球を記録した大船渡高校の佐々木朗希(ろうき)投手は、マウンドに立つことなく球場を去った。敗戦後のインタビューで佐々木投手はこう答えた。

「高校野球をやっている以上、試合に出たいのは当然のこと」

 判断したのは国保(こくぼ)陽平監督。「この3年間の中で一番故障する可能性が高いと思った」からだと説明した。

 最速163キロは体にどんな負担を与えるのだろうか。

 プロ野球巨人のチームドクターの経験がある増本整形外科クリニック(東京)院長の増本項(こう)さん(59)によると、速い球を投げれば通常は肩やひじに大きな負担がかかる。また、投手によっては腰を起点にひねって投げるタイプと股関節を軸に投げるタイプがいて、負担のかかり方が違う。

「大きく足を上げて投げる佐々木投手の場合は、股関節に負担が大きくなるような投げ方に見えるので、その点で注意が必要です」

 今回の登板回避問題を受けては、そんな議論より著名人の意見の食い違いばかりがクローズアップされた。

 野球評論家の張本勲さんがテレビ番組で「けがをするのはスポーツ選手の宿命。痛くても投げさせるくらいの監督じゃないとダメ」と国保監督を批判して大炎上。大リーグのダルビッシュ有選手やサッカーの長友佑都選手がツイッターで張本さん批判を展開した。だが、日々佐々木選手を見ているわけではない著名人に、「どちらが正しい」と判断できる問題なのか。医学的にはどうなのだろう。

「投げ方が正しければ痛みは出ない。球数よりも投げ方の問題の方が大きいと考えています」

 野球で体を痛めた患者を月600人ほど診る接骨院北原(東京)院長の北原茂さん(38)は話す。ひじの内側側副靱帯を痛める患者が圧倒的に多いという。

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