折坂の歌う歌、作る音にじわじわと共鳴するリスナーが増え、いつのまにか時代が彼についていくかのような潮目になってきたのは、歌は共有していくものという哲学が、おおらかな目線をはらんでいるからではないかと思う。

 だから彼の歌はどんな相手とも合流できるし、どこで演奏してもそこでの風景を味方につけることができる。一人でライブをするときは「独奏」、バンドを引き連れている時は「合奏」と呼び名を変え、最近は京都に拠点を置く複数のミュージシャンたちと組んだ「重奏」でもステージに立つ。

 昨年のフジロック・フェスティバルでは多くの観衆が地面に体育座りをして見届けたし、今年5月に開催された東京でのワンマンコンサートの会場は鶯谷にあるレトロな元キャバレーの「キネマ倶楽部」だった。つい先ごろは、毎年恒例の東京中野区大和町八幡神社で開催される「大盆踊り会(DAIBON)」に2年ぶりに出演し「東京音頭」を歌った。

 VHSビデオの音声や映像からサンプリングした音源を元に独創的な曲を作るアーティスト・VIDEOTAPEMUSICのニューアルバム「The Secret Life Of VIDEOTAPEMUSIC」に、クレイジーケンバンドの横山剣、ceroの高城晶平らとともにヴォーカルで参加したことでも注目されている。

 そして、フジテレビ系列で現在放送中の7月期“月9”ドラマ「監察医 朝顔」(主演・上野樹里)の主題歌に大抜擢。8月5日配信で発売・公開された「朝顔」は、これまでの折坂の作品とはまた異なる、ストレートとも言えるモダンなバラード曲だ。ポルトガルのファド、パキスタンのカッワーリのような、世界各地の民謡・歌謡にも匹敵する折坂のしなやかで強い歌声を堪能しつつ、日本の音楽シーンに新たな歴史が刻まれている手応えを感じている。

 手の届かない憧れのヒーローなどではなく、一緒に歌っていてくれる我々民衆の代表のような存在が登場したのだと。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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