ところがトランプ大統領はこれを「史上最悪の取引」と罵倒。18年5月8日、一方的に核合意からの離脱を宣言し、経済制裁を再発動した。イランと取引する企業、特に金融機関に対する制裁では、自国だけでなく他国の企業も対象にすると発表した。一国の法令を域外に適用し、他国民を処罰するこうした「二次的制裁」は主権侵害にあたるとの批判が以前からある。特に今回は安保理決議に反しているから重大だ。

 イランと6カ国でやっとまとめた交渉の成果を覆す米国の合意離脱に、イランはもちろん、米国を除く5カ国が怒ったのは当然だ。中でも英、仏、独は共同で遺憾の意を表明した。

 6月13日に日本の国華産業が運航するタンカー「コクカ・カレジャス」とノルウェーの「フロント・アルタイル」が攻撃された事件で、米国は「イランが吸着水雷で攻撃した」と主張した。吸着水雷は強力な磁石をつけた小型爆弾で、潜水兵が停泊中の艦船の船底に取り付ける。だが「コクカ・カレジャス」の破孔の一つは右舷後部の水面より少し上、もう一つは右舷中央部のはるかに高い舷側で、そこに付けるのは困難だ。

 同船は航行中で、乗組員は「砲弾のような物体が飛来した」と報告している。1回目の爆発は突然のことだから思い違いがあり得るとしても、2回目の爆発はその3時間後だ。乗組員は1回目の爆発による火災を消火しており、もし右舷中央部の舷側に異様な物体が取り付けられていれば気付くはずだ。「物体が飛来した」との乗組員の報告は無視できない。

 日本政府は乗組員の報告を聞いているから、米国の「イラン犯行説」を妄信せず、「誰が攻撃したのか分からない」(石井啓一国土交通相)、「予断をもって発言することは控えたい」(菅義偉官房長官)など慎重な反応を示したのは当然だ。日本だけでなく、英国以外の国は米国の説を直ちに信じていない様子だ。

 イランは米国の核合意からの離脱、経済制裁発動に反発し、発電用の低濃縮ウランの製造を再開、7月8日には濃縮度を4.5%に上げることを発表した。核兵器用の約90%にはほど遠く、不満を示すジェスチャーだとみられる。

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