米国はこれを「核合意違反だ」と非難した。だが米国は自らすでに核合意を破棄し、最大限の経済制裁を行っている。まるで売買契約を破棄し「代金は支払わない」と言いつつ、「商品を納入しないのは契約違反だ!」と叫んでいるような、滑稽な姿だ。

 不測の事態も起きている。英国領のジブラルタル自治政府は7月4日、英海兵隊とともにイランのタンカー「グレイス」を拿捕した。欧州連合(EU)のシリア制裁に反してシリアに石油を運んでいたのがEU法違反、としている。だがEU法は加盟国以外の行動を縛るものではない。また、ジブラルタル海峡は航行の自由が定められた国際海峡で、英国領海であっても無害通航が認められている。インド人船長ら2人が逮捕されたが、裁判になれば拿捕の適法性が争点になりそうだ。

 これに対し、イランも7月19日、英国のタンカー「ステナ・インペロ」をホルムズ海峡付近で拿捕した。不当な拿捕に対し、同様な手段で報復することは古来の慣習ではあるが、拿捕合戦は双方に有害無益だ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2019年8月5日号より抜粋