──連載が始まった頃に獏さんにお会いしたら、「新しいキャラクターも出てきたし、あの話は長くなるよねえ」と、嬉しそうにおっしゃっていましたよ。

萩尾:読者から顔が違うと言われるのは覚悟していたんですけれど、意外と皆さんに喜んでいただけて、ホッとしました。他の作家さんもそうですが、絵柄は少しずつ変わっていくし、そのほうが自然なんですよね。

──40年以上愛されてきた作品は、どんなところから生まれたのでしょう。

萩尾:『コスチュームの歴史』という大きな本を、ある仕事を手伝ったお礼に出版社からいただいたんですね。デザイン学校時代に服飾の歴史は習ったんですが、大量の図版で見ると迫力が違いました。クラシカルで素敵な衣装がたくさん載っている本を眺めながら、ふと「マントを翻した吸血鬼の少年が丘の上に立っている」というイメージがわいてきて、そこからだんだんお話を考えていったんです。

──『ポーの一族』のエドガーはバンパネラ(吸血鬼)となった少年です。1970年代の少女漫画で、年をとらないことを隠しながら人間社会で生きている、いわば異端の存在を主人公にした作品は衝撃的でした。

萩尾:実は私、今でもホラーやオバケ系のものは本当に苦手なんですが、石ノ森章太郎先生に「きりとばらとほしと」という吸血鬼を主人公にしたきれいな作品があったので、怖くない吸血鬼のお話なら描けるかもしれない、と思ったんです。SFやファンタジーが好きだったので、主人公を怪物的な存在として描くことに抵抗がなかったのです。

──エドガーとアランが40年経っても魅力的なことに驚きます。

萩尾:キャラクターがよく立ち上がってくれているので、二人を公園や学校に連れていくと勝手に動いてくれて、お話を考えるのは楽なんです。異端者として存在している主人公の物語なので、二人が人間の少年だったら、立ち上がる風景も違うものになってくるでしょう。

──海外でも講演されていますが、少女漫画の立ち位置はこの50年で変わりましたか?

萩尾:少年漫画も含めて、日本の漫画が世界中の人に愛されるようになった。ありがたいなと思います。

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