「由阿は描きやすかったですね。子どもたちにも尽くしすぎず、適度に突き放している母親。あんまり読者の参考にはならないかもしれませんが、ひとつのあり方として読んでいただければ(笑)」
森さんは千葉県で育ったが、校内暴力がピークの時期で、厳しい管理教育の下に中学時代を過ごした。
「今でも当時のことは嫌で、あまり思い出さないですね。私の中には管理されることへの抵抗感が強くあって、だからこそ未来を案じ、自分なりのやり方で風穴を開けたくなるのかもしれません」
結末は清々(すがすが)しい。「小説らしい手法で未来を照らしてみたかった」という森さんの願いが伝わってくる作品である。(ライター・千葉望)
■Pebbles Books久禮亮太さんオススメの一冊
『短編画廊 絵から生まれた17の物語』は、エドワード・ホッパー作品から連想し紡ぐ小説集だ。Pebbles Books久禮亮太さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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エドワード・ホッパーの絵は、フィッツジェラルドやカポーティなど多くの翻訳小説のカバーを飾ってきた。ホッパーの描く都市生活者たちが湛(たた)える孤独や憂鬱は、本を愛する私たちの心性と合うと感じる。日常の何げない瞬間を切り取ったモチーフ、明暗と色彩、構図の美を追求した作風は過剰な意味づけを避け抽象画のようなのに、観る者それぞれに物語を想像させる。
本書は、17人の作家たちが各々一枚のホッパー作品から連想し紡いだ小説集。S・キング、M・コナリー、J・ディーヴァーなど、面白くないはずがないラインアップ。なかでも出色なのは、ジョイス・キャロル・オーツ。静謐な裸婦像一枚から、妻子ある男と愛人それぞれの内心で目まぐるしく生起する愛憎を描き出す筆力に圧倒される。
作家たちの多様な想像力を一冊で存分に楽しめる。
※AERA 2019年7月29日号