柚木:「抑圧には堂々と反発していい」という空気はできてきたと思うんですが、一方でいろいろ気にしなくてはいけないことも増えた気がして。

上野:どういうこと?

柚木:例えばこの間、小説で男性のイヤなところについて強めの言葉で書いたら、「主張はいいと思うんだけど、これだと男の人が悪者になっちゃうから、もうちょっと柔らかい表現に変えられないかな」と言われたんです。

上野:その忖度はおかしい。男が嫌がること言ってるんだから、嫌われていいじゃない。

柚木:そうなんです。でも、「男の人も救ってあげなきゃ」みたいな空気がある。例えば駅のエスカレーターに「盗撮に気を付けて!」というポスターがあったりする。「え? 『盗撮するな』じゃないの? こっちが気を付けるものなの?」って。

上野:被害者に「被害者になるな」じゃなくて、加害者に「加害者になるな」って言うのが当然なのに。まだそんなに旧時代的な空気があるの。

柚木:痴漢の告発もフェミニズム発言も認められる空気はできたけど、一方で「男の人に嫌われないうえで、フェミニズムをやろう」という空気をすごく感じますね。

上野:別に女は男を救うためにフェミニズムやってきたわけじゃない。自分が救われたいからやってるんだから。男性も嫌なことは嫌と言えばいいのよ。人間って我慢し続けてあるとき突然立ち上がれるかというと、そうじゃない。抑圧され続けると、抑圧に慣れる生きものです。

柚木:本当にそう思います。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年7月8日号より抜粋