日本の船舶や航空機内で起きた犯罪も含まれ、短期滞在でも「居住」とみなされれば外国人も対象になる。支給額は18万円から約4千万円と幅があり、警察庁によると、17年度の同給付金の平均裁定額は約628万円で、最高支給額は約2970万円だった。

 海外で犯罪に巻き込まれた際に支払われる弔慰金200万円を大きく上回り、事件の発生場所が国内か海外かによって、支払われる額に「格差」が生じている。こうした状況から、海外で被害に遭った人の遺族からは「不公平だ」と指摘する声が上がっている。

 警察庁給与厚生課によると、国内で起きた犯罪被害者の救済制度については、日本政府が治安維持に責任を負っているという観点から国税で賄われているが、海外の治安維持については当事国の責任によるため、同等に扱うことが難しいという。

 加えて海外の場合は、捜査権限が当事国の捜査機関にあり、資料も日本側に提供されない。このため犯罪被害の事実認定が難しく、一律の見舞金として支給しているという。

 遺体の搬送費用という問題もある。外務省は負担しないため、被害者が保険に加入していなければ、遺族の自己負担だ。海外から日本への医療搬送を支援する特定非営利活動法人「海外医療情報センター」によると、遺体の搬送費用はアジア圏内で約180万円、欧米からの搬送は約220万円かかるという。同センターの担当者は語る。

「空港が近くにない場合は、現地での移送費も必要です。島からカヌーのようなもので遺体を運んだこともありました。また、現地警察による捜査が長引き、遺体がいつ返還されるのか分からず、遺族が戸惑ったこともあります」

●自費でタイへ巡礼の旅、「お金と体力が続く限りは」

 冒頭の川下さんは娘を亡くして以来、約10回タイに赴いたが、渡航費や宿泊費はすべて自己負担だ。1回の渡航で1人当たり少なくとも15万円はかかり、これまで費やした総額は、約400万円に上る。

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