●テロ発生国からの支援なし各国で対応にばらつき

 これまでタイに赴くと、在タイ日本国大使館の調整で、副首相や法務大臣などの関係閣僚や、国家警察幹部にも面会し、事件の早期解決を訴えてきた。面会の実現に当たっては、手紙を日本語でしたため、同大使館に翻訳を依頼してきた。

「激務の中で、申し訳ないと思いながら、毎回頼んでいた。タイ政府から届いた文書がタイ語や英語だったため、知人に翻訳をお願いしたこともあります。言葉の問題で大変な思いをしないように、通訳や翻訳の支援をしてくれる専門機関を設置してほしい」

 海外で犯罪に巻き込まれた人の遺族で、その後も捜査の進展がなかったり、言葉の壁にぶつかったりと、対応に苦慮している川下さんのような人は少なくない。

 外務省によると、海外で犯罪に遭った日本人の数は、最新の統計がある17年から過去10年をさかのぼると、年4400人から6千人の間を推移している。決してひとごとではないと感じる数字だ。

 17年の被害の内訳を見ると、窃盗が3813人と最も多く、詐欺332人、強盗・強奪287人、傷害・暴行91人と続く。殺人事件に巻き込まれ死亡した被害者は9人おり、10年間の総数は122人にのぼる。テロの被害者は17年にはいなかったが、過去10年間で死者は24人に及ぶ。

 今年4月21日、スリランカの最大都市コロンボなどで死者約250人以上を出した連続爆破テロ事件では、日本人女性の高橋香さん(当時39)が犠牲になった。高橋さんは、日本人の夫と子ども2人の一家4人でコロンボに暮らしていた。事件当日は、ホテルで朝食を取っていた際に爆発に巻き込まれたとみられ、一緒にいた夫と子どもも負傷した。

 発生から4日後の4月25日朝、高橋さんの遺体と家族を乗せた飛行機が成田空港に到着した。

 スリランカ政府は、犠牲者に100万ルピー(約62万円)、葬儀費用に10万ルピー(約6万2千円)をそれぞれ支払うと表明。だが、高橋さんの遺族への支援について、在日スリランカ大使館の担当者に問い合わせると、「外国人は支給の対象外。外国人が犯罪に巻き込まれた際の公的な補償制度も特にない」と回答した。同政府からの公的な支援はないことが明らかになった。

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