10代でデビューし、常に「予想を超える」自分を追い求めてきた。50歳にしてロンドン移住という挑戦も成し遂げた。が、実は行き詰まりを感じた時期もあったと話す。

「正直に言うと10年前、前作『ギタリズムVI』のときに、『ちょっと危ないな』と思ったんです。何を作っても同じになってしまう、自分のスタイルに寄りかかってしまいがちになった。ロンドン移住はある意味でエスケープだったのかもしれない」

 それでも自身を奮い立たせ、新しい環境に飛び込んだ。

「最初、家族は戸惑っていましたよ。特に(今井)美樹さんは母、妻、そして一人のシンガーとして、環境の変化に苦労したと思う。娘の学校や言葉の問題もありますし。でも最近は2人とも生き生きとしています」

 自身の音楽活動もまた、思い描いたようにはいかなかった、と笑う。

「当初は、なかなか思うようにチケットが売れなかったりね。でも誰も僕を知らないんだからしょうがない。ライブハウスで演奏したり、地道に一歩一歩やっています。それにロンドンってのんびりしてるんですよ。市内でもWi-Fiは遅いし、動画ダウンロードに23時間かかったりする(笑)。日本に来ると便利だなあと思うけど、いまはイギリスに帰るとホッとするんですよね」

 EU離脱に揺れる国の「微妙な空気」も肌で感じている。

「聴いたときに、その時代を思い出すような作品を残したい。いまの時代、みんなどこか不安を抱えながら生きている。でもそのなかでも自由でありたい、未来に夢を持っていたいと願っている。音楽とはそんな人間の心やビジョンを映し出すものだと思うんです」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年6月10日号