クリスチャン・ベールが体重を20キロ増やして挑んだチェイニー副大統領役 (c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
クリスチャン・ベールが体重を20キロ増やして挑んだチェイニー副大統領役 (c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.

 ジョージ・W・ブッシュ政権で実権を握ったチェイニー副大統領を描いた映画「バイス」が公開中だ。内面に迫る演技をみせた主演のクリスチャン・ベールが、演技にかける思いを率直に語った。

*  *  *

 2015年に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」で監督のアダム・マッケイと組み、金融危機を予測した奔放な投資家を演じたクリスチャン・ベール。2人が再びタッグを組んで向き合ったのは、01年の同時多発テロ後に米国の方向性を定めたと言っていい「副大統領のチェイニー」という重い役だった。

 ベールは「アダムと交わした約束は、僕に、自分の考えから離れて、チェイニーになりきり、彼を擁護させてほしい、ということだった」と明かす。あえて保守的な考えに浸り、チェイニーの内面をのぞいたのだ。

 チェイニーは米国防長官、ホワイトハウスの首席補佐官を務め、ワシントンの表と裏を知り尽くした人物だ。

 作中で、ブッシュに副大統領職を依頼されたチェイニーが考えついたのは、「素人」のブッシュを丸め込み、実権を握ることだった。「ありふれた仕事、例えば官僚機構の統括や軍事、外交を担当できるなら」というチェイニーの提案にブッシュは「いいね」と即答。それがチェイニーが「影の大統領」としての地位を固めていく始まりだった。

 チェイニーは同時多発テロへの対処で実権を握り、米国はイラク戦争へと突入していく。戦後、権力の空白と混乱に直面したイラクには、過激派組織「イスラム国」(IS)が誕生。世界はその帰結に長く苦しむ。

 興味深いのは妻リン(エイミー・アダムス)との関わりで描かれるチェイニーの脆弱な側面だ。名門大学を中退し、酒に溺れるチェイニーは、「立派な人になって」とリンに叱咤され、改心して邁進し始める。

 チェイニーの資料を読み込み、仕草まで習得するなかで、ベールは「まるっきり悪者の人などいない。例えば、チェイニーは、娘が同性愛者であることを告白したとき、一瞬も迷わずにその娘を受け入れた」と、その人間味にも共感したという。

次のページ