文章は英語で書き、信頼する翻訳者で友人でもある坪野圭介さんが訳している。

「二人で相談しながら何度も翻訳を見直しました。彼のウィットに富んだ豊かな日本語訳で、僕はいち読者に。亡くなった祖父と祖母の話に涙が出ました」

 ユーモアたっぷりに文章で描かれるアメリカの子どもの日常は興味深く、鋭くも温かなまなざしが印象に残る。

 日本に住んで12年目。

「人生は短いから、いちばん関心のある場所にいたい。それが今は日本なんです」

(ライター・仲宇佐ゆり)

■書店員さんオススメの一冊

 若手サラリーマンを主人公とした『逃げ出せなかった君へ』は、仕事を通して「生きるとは何か」を問う連作小説だ。三省堂書店の新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 ブラック企業という言葉が生まれる、少し前の頃である。深夜の居酒屋で生ビールをおかわりするサラリーマン3人組。彼らはマンションの営業マンとしてこの春入社し、3カ月間、1日も休みをもらえていなかった。早朝から民家を訪問し、GPSで行動は常に監視され、会社に泊まることも珍しくない。そりゃあ、何の変哲もないビールも泣くほど美味く感じるだろう。人間らしい生活ができていないのだ。しかし、彼らに会社を辞めるという選択肢はない。上司から執拗に罵倒され、人格を否定され、すっかり洗脳されていた。この会社を辞めても、クズの自分には行くところなんてない、と。

 まだ若い彼らが、その後どんな人生を歩むのか。人間は他人に影響を与えずに生きることはできない。その連鎖で生まれる物語のすべては、作者らしい優しさに溢れている。

AERA 2019年5月6日号-2019年5月6日合併号