古代中国を描く歴史漫画「キングダム」が、ビジネスパーソンに人気だ。多彩な登場人物の誰に共感するか。楽しみも教訓も尽きない。
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天下一の将軍になることを夢見る秦の戦災孤児・信が、後に史上初の中華統一を成し遂げる若き日の始皇帝・エイ政(※エイは瀛からさんずいを除いた字)と偶然めぐりあい、天下統一の夢をともに追い求める──。
紀元前3世紀の春秋戦国時代の中国を舞台に繰り広げられる壮大な物語『キングダム』(原泰久、集英社)。単行本は53巻まで刊行され累計発行部数が3800万部を突破、現在も「週刊ヤングジャンプ」で連載中の人気漫画だ。今回実写映画化され、4月19日から全国公開される。
あまりなじみのない時代設定の歴史ロマン。しかし起業家やビジネスパーソンから熱い支持を集めているという。
「ビジネス的な観点から読まれることはまったく意図していませんでした。嬉しい誤算です」
3代目の担当編集者である「ヤングジャンプ」編集部の大沢太郎さん(35)はこう語る。
「原さんとしては、ご自身が子どもの頃に読んでいたような王道のアクション漫画という認識だったと思います」
作者の原泰久さん(43)は理系の大学院卒。システムエンジニアとして会社勤めをし、30歳でデビューした異色の経歴を持つ。社会人経験という下地に、『史記』を読み込み人物ごとにばらばらなエピソードをエクセルで年表にまとめるなど物語全体を俯瞰する目、キャラクターとシンクロさせる力が合わさってキングダムの世界が成立したと大沢さんは考えている。
「ある取材で『原さんはキングダムのキャラクターだと誰ですか』と聞かれて『みんな僕の一部です』とおっしゃっていました。なるほど、だからキャラクター全員が魅力的なんだと思いました」
特に起業家に支持されている理由を、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授(46)はこう語る。
「ビジネスの最前線とキングダムの不確実性の世界観がマッチしているからです」