当時、キングダムは日本中の経営者やスタートアップの起業家に勇気を与えていた。三浦さんは、ニューズピックスなどのビジネス系メディアが立ち上がり経営者が注目されていたタイミングでビジネスパーソン向けのキャンペーンを打つのは意味があると考えた。

「真実として、キングダムが一番売れているビジネス書だと断言できると思いました。いろいろなビジネス書がありますが、キングダムよりいいビジネス書はないよな、というファクトを真ん中に置きました」

 だからビジネス書仕様のカバーを特別に作ることに一番こだわった。一冊一冊読み直し、内容に合ったビジネス書としてのコピーを作る。そしてそのカバーを着けた単行本を実際に書店に出現させた。

 ビジネス書仕様の『キングダム』が並べられた書店の写真はSNS経由で広がっていった。

「実際にモノを作ったという本気感を感じてもらうのが大事。じゃないと消費者は動きません」

 三浦さんも、現在のビジネス環境とキングダムに描かれている世界は、正解がない時代であるということと、個人の可能性が重視されているという部分で共通点を感じるという。

「現代は人類史上最大に予測不可能な時代と言われています。正義か悪かではなく、無数の多様な価値観があって闘いあっているのはキングダムの乱世と同じ。魏の廉頗や趙の李牧(りぼく)は、秦と敵対してはいますがそれぞれの正義がある。現代の経営者も、事業が優れているのは大前提ですが、個人として思想や目指しているものを明確に発信している方が注目を集めやすい。将たちが個々人のキャラを持って組織を率いているのに極めて近い」

 キングダムの物語の軸は、主人公・信が奴隷同然の扱いから徐々に成長していく姿を描くところにある。最少の組織は五人組。そこから100人の部下を持つ百人将、千人将とバージョンアップしていき、1万人の部下を持ったら将軍になる。三浦さんは言う。

「僕も会社員を辞めて3人で自社を始めて徐々に人が増えて……となりましたが、マネジメントとして成長していく時のフェーズ感の課題がまったく一緒。新入社員から始まって部長、役員という成長と、アナロジーとして勇気づけられる物語なんじゃないか」

 三浦さんの会社ではキングダムは課題図書。新入社員は全員読んでおり、いわば社内の共通言語だ。

「ロールモデルが物語の中にあるので『おまえはヒョウ公(※ヒョウは鹿にれっか)を目指せ!』とか、コミュニケーションのスピードが速くなります」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年4月22日号より抜粋