揚げパン、ミルメーク、牛乳……子ども時代の楽しさを思い出させる給食のメニューの数々。しかし苦い思いが込み上げる人たちも(撮影/写真部・松永卓也)
揚げパン、ミルメーク、牛乳……子ども時代の楽しさを思い出させる給食のメニューの数々。しかし苦い思いが込み上げる人たちも(撮影/写真部・松永卓也)
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 給食の時間が大好き……ではない子どもたちがいる。「指導」に疑問を感じる教員もいる。本当はみんな、もっと自由に、楽しく食べたいはずなのに。

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 甘い揚げパンを口にしたのは何十年ぶりだろう。ソフト麺をミートソースにからめ食べると懐かしさが一気に込み上げた。東京都台東区で約30年営業してきた「給食当番」。店内では客が楽しげに思い出話に花を咲かせる。けれども、そんなノスタルジーの一方で、

「給食は地獄だった」

 と振り返る人たちもいる。金融業界に勤める男性(24)はそのひとり。男性の通った公立小学校では「ランチルーム」で給食をとる日が定期的にあった。給食の先生がクラスを見張り、完食するまで部屋を出ることが許されなかった。男性は言う。

「小さいころから完食のプレッシャーを感じやすかったのですが、ランチルームの体験が決定打となり、会食恐怖症を発症しました」

 会食恐怖症とは社交不安症のひとつ。男性は自宅や気心の知れた人たちとは普通に食事がとれるが、初対面の人とでは「完食できるか」の不安が起き、動悸や喉の詰まりからものが食べられなくなる。

 社会人1年目。上司や先輩からのランチの誘いはうれしいのに、完食プレッシャーが顔に出て誤解されることもある。

「人に話しても、会食恐怖症自体、知られていないので理解されずつらいです」

 身長180センチで爽やかな風貌。小中学校時代はバレンタインデーにチョコレートを5、6個はもらっていた。しかしここ数年、恋人はいない。デートに食事は付きもののため、つい敬遠してしまう。大学のサークルや就職も会食の極力ないところを、と選んできた。

「どうにか克服したいです。食べることでいろいろな人と知り合い、交流が広がる世界に憧れます」

 日本会食恐怖症克服支援協会が設立されたのは2017年。代表の山口健太さん(25)が自らの経験をもとに相談を受け付けると、件数は年間でのべ千件を超え、今も日々メールが入る。その半数以上が給食がらみで、発症の約6割は完食指導がきっかけだという。

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