法的措置は、このような「バイトテロ」を防ぐ特効薬になり得るのか。マジシャンとしても知られる銀座ウィザード法律事務所の小野智彦弁護士に聞いた。

「従業員が雇用主を誹謗中傷するようなことは今に始まったことではありませんが、昔は文字だけだったので問われるのは名誉毀損ぐらいだった。SNSに投稿する形の現在では拡散の度合いが桁違いです。損害賠償ということになれば、実害を算定したり動画の削除に要した労働力なども計上する必要があり、億の単位を超えるようなケースもあるでしょう」

 だが、賠償を請求しても被害額を取り戻せるとは限らない。

 倒産を余儀なくされた泰尚は、投稿に関わった当時のアルバイト4人に対し、休業に伴う損失など1385万円を民事訴訟で請求した。だが結果は、4人合計で200万円の和解金しか得られなかった。

 遊び半分の騒ぎが招く、大きすぎる結果。その責任を問う仕組みが整っていないことが原因だ。小野弁護士が続ける。

「デジタル技術の進歩に、法律を含めた仕組みが追いついていない。例えば昔のグリコ森永事件のような毒物混入事件は、明らかに犯人側が相手に損害を与える覚悟のようなものが読み取れたが、最近のバイトテロは被害が甚大なのに、本人には罪悪感すらないこともある」

 ほかに対処法はないのか。

「威力業務妨害事件として警察が小まめに動いていくつか立件されれば警鐘になると思います。あとは、こうした悪ふざけの代償や影響をきちんと教育することが大事でしょう。ネットで見た痴漢の動画に影響されて、エレベーターでスカートめくりを繰り返した少年事件を担当したことがありますが、今は何が動機になるかわからない時代なのです」

(編集部・大平誠)

AERA 2019年2月25日号