外傷性脳損傷は、外部から頭に強い衝撃を受けたとき脳がダメージを受け、手足のしびれや舌のもつれなどの症状が出る。慢性期脳梗塞は、主に血管の詰まりが原因で脳が傷つき、やはり歩行や言語能力の障がいにつながる。脳細胞はいったんダメになると元に戻らないのが定説だが、サンバイオの新薬「SB623」を脳の3カ所に直接注射すると、神経回路が再生するという。この臨床試験に、外傷性脳損傷では“合格”し(11月)、厚生労働省の承認申請段階へ。慢性期脳梗塞では“不合格”だった(1月)というわけだ。

 創薬に不確実性は避けられない。時間もかかる。研究費も莫大だ。一般的に創薬は、基礎研究から20年、人件費などは除いた開発費用だけでも1千億円以上かかる。これだけの時間とカネを費やして、成功率は3%──。

 財務省の貿易統計によれば、医薬品は毎年、巨額の貿易赤字を生んでいる。17年度は輸出5948億円に対して輸入2兆7346億円。医薬品だけで差し引き2兆1398億円の赤字で、医薬品に関して日本は後進国だ。政府もこのことを憂慮し、国策として創薬ベンチャービジネスを推している。

 創薬ベンチャー業界で時価総額首位のペプチドリームIR広報部長、岩田俊幸さんに聞いた。

「開発が簡単な医薬品は開発し尽くされ、難しいターゲットの疾患が残っています。この状況に、当社の技術なら開発ができます!と言えるかどうかが勝負になります。こうした開発競争を支えるのが投資マネーです。画期的な新薬の開発には膨大な時間とコストがかかるわけですから、株式市場を活用した資金調達の役割は大きいです」

 と、金融市場が持つ仲介機能の重要さを説く。

「これからは効果が高いだけでなく、製造コストが低く医療経済面でも貢献する特殊ペプチドを用いた医薬品が製薬業界の主流になっていくと予想していますが、再生細胞薬も治療薬のない患者に希望を与えるという点で大切です。日本の医薬品業界の現状は欧米の後追いばかりで、これでは貿易赤字も縮小されないままですが、この状況を変え得る技術を持つ日本の創薬ベンチャーは存在します。今回の件でやはりバイオ株投資は怖いとひとくくりに考えないでほしいと思います」(岩田さん)

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