17年12月末、次女は支援員の説得で家を出た。アパートは既に確保してあり、生活保護を受給して暮らすのだ。次女が去った家には、ケータリングの残骸が足の踏み場がないほど、うずたかく積み上がっていた。

「8050問題」「7040問題」という言葉がある。80代の親と50代のひきこもりの子、70代の親と40代のひきこもりの子を指すのだが、ひきこもりが中高年に達し、親の高齢問題と併せて、ここにきて深刻な社会問題として浮上している。

 内閣府の「若者の生活に関する調査」(16年)によれば、ひきこもりの「若者」は全国に54万人いるという。ここには40歳以上は含まれない。「若者」とは39歳以下を指すからだ。

 では、40歳以上のひきこもりは実際、どれくらいいるのだろう。山形県のひきこもり調査(13年)では、40歳以上のひきこもりが全体の44%と半数に迫り、島根県の調査(14年)でも、ひきこもりで最も多い年代が40代で、40歳以上は53%、佐賀県の調査(17年)でも40歳以上の割合が71%となった。

 機械的に当てはめれば、40歳以上のひきこもりは、全国に70万人近くも潜在していることになる。

 その男性(52)は、実年齢より10歳は老けて見えた。髪は後退し、前歯は1本しかない。歯がないため空気が漏れて言葉が聞き取りにくく、唾があふれるのを拭いながらの会話には、不自然な間がある。

 男性がひきこもりとして支援対象となったのは2年前、84歳の母と48歳の妹が生活困窮者自立支援窓口に駆け込んだからだ。母と2人で暮らしていた男性は働かず、金の無心を続けていたが、ささいなことから激高して母の首を絞め、これがきっかけで相談につながった。

 夫と子ども2人と暮らしている妹には、強い危機感があった。

「母がこのまま兄の言いなりで面倒を見続けるなら、縁を切るつもりです。母亡き後、兄の面倒を見るなんてとんでもない。兄とは一線を引いておきたい」

 父親は大手ゼネコンの幹部で、東京近郊の高級住宅地の豪邸で、裕福に暮らす家族だった。

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