98年から各国で定期的に国際会議を開いてきた国際母子手帳委員会の中村安秀代表(66)は、医師としてインドネシアなどで母子手帳の普及に努めてきた。

「途上国では母子手帳を持つと母親の意識が変わる。健診にも関心を持ち、医師にも質問できるようになる。母子手帳には、母親を励ます力があるんです」

 委員会が掲げる近年の課題は「誰一人取り残さない」こと。静岡県が作り、18年春から母子手帳とあわせて配っている低体重児向けの「しずおかリトルベビーハンドブック」はその好例だ。

 保育器の中の赤ちゃんに「初めて触った日」「初めて抱っこした日」などの記念日を書く項目、「おもちゃを目で追う」「手どうしを握る」など発達や成長を見つける項目……。ふつうの母子手帳だけではカバーしきれないきめ細かさだ。

 タイでは同委員会事務局長の板東あけみさん(67)が紹介。「英語版はないのか」と質問攻めにあった。

 板東さんは京都や静岡などの大学で母子手帳の授業を続けているが、自分の母子手帳を見た学生たちは自らの誕生や成長への親の思いに触れ、心を揺さぶられるそうだ。

「母子手帳は最終的には子どものものなんです。親や社会がいかに自分の命を守ってきたか、その歴史が語られている。若い世代にとっては自身の存在を肯定するツールだし、自分たちが親になる時のテキストです」

(朝日新聞社会部皇室取材班)

AERA 2019年1月21日号