アマゾンのドキュメント文化とは、お客さまを中心に考えることにこだわるということなのです」(チャン社長) 

 プレゼンテーションクリエイターの前田鎌利(かまり)さん(45)は、資料に対する国内企業と外資企業との意識の違いをこう解説する。

「欧米は契約社会で『書いてあることがすべて』という意識が強いため、資料でも文章が好まれる。一方、日本では『行間を読む』文化があり、単語や短いセンテンスの方が伝わりやすい」

 文章で伝えるか、図表を盛り込んだパワポを使うかなどは企業文化で異なるが、資料を数枚に収めるスキルが必要とされていることは間違いない。

 元博報堂の制作部長で『企画書は、手描き1枚』の著書もあるプランナーの高橋宣行さんは、ビッグデータの時代だからこそ、情報の「先」にある視点が大事になる、と語る。

「データ主義で情報が精緻になるほど、数字を追ってたどり着く結論は似たようなものになる。今の時代、情報の整理はAIがやってくれます。これからは『論理』の先にある提案者の『想い』が伝わる企画書を書ける人材が求められています」

 高橋さんは、現役時代から上司への提案書もクライアントへのプレゼンも「手書きで1枚」を実践していたという。社内であれば解決すべき課題は大まかに共有されていることが多いので、元データを大量に用意する必要性は薄い。むしろ手書き1枚で、タイトルをつけて強弱をつけたペン書きをしたほうが、上司が判断すべき事項が明確であるうえ、時間がなくても「これだけ見てください」と手渡せるメリットがあるという。

 また社外に対しては、手書きという「意外性」がプレゼンで優位に働き、視覚的に1枚にまとめることで、相手が商品やサービスの「絵」を想像しやすくなる効果があるという。「思考のプロセスが見えることが重要だ」と高橋さんは語る。

「五感をフル活用して1枚に落とし込んだ企画書は、相手の感覚に訴えることができるから強いのです」

 今回の取材でも、高橋さんは「手書き1枚」で要点をまとめてくれた。確かに、伝えたいことが感覚的にスッと入ってくることがわかる。

 だらだら長い「やりました」資料は百害あって一利なし、だ。(編集部・作田裕史)

AERA 2018年12月17号より抜粋