稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
新聞に載っていた拘置所のお部屋。どことなく我が家と似ている気も……。風呂は週3だが(写真:本人提供)
新聞に載っていた拘置所のお部屋。どことなく我が家と似ている気も……。風呂は週3だが(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】新聞に載っていた拘置所の部屋の様子

*  *  *

 逮捕されたゴーン前日産会長に関するニュースを、とても興味を持って見ています。といっても日産とルノーの経営統合の行方といった大きな話ではなく、別のもっと大きな話。満ち足りた人生とは何かということについて。

 逮捕容疑は前会長の巨額報酬をめぐる問題です。違法行為が本当にあったかどうかは別として、いずれにせよ、普通の感覚では想像もつかないほどのすごいお金を手にしていた前会長。でも、彼はそれによって「お金持ち」になれたのでしょうか。

 会長としての報酬以外に、退職後も年10億円のお金をもらうことになっていたそうです。この契約を隠していたかが問われているわけですが、間違いないのは、彼は今の巨額報酬だけでは「足りない」と思っていたということ。もっと欲しい、と思っていた。

「足りない」ってことは……つまりは貧乏人? 

 年収200万円でも「150万あれば十分幸せ」という人なら、この人は満ちたりた人生を過ごしているだけでなく貯金もできてしまう。でも年収10億でも「15億ないと困る」という人は、絶えず金が足りない足りないと不満に思って生きなければならない。

 で、どちらが幸せなのでしょう。誠に人の欲とは恐ろしき。逮捕されなかったとしても、欲にのまれていたゴーン前会長の人生は既に餓鬼地獄であったと思うのです。

 今ゴーン前会長は東京拘置所の3畳一間の空間で、麦飯を食べ、自由に寝転ぶことも許されず、海外メディアなどではその「不自由な待遇」が注目されているとか。その議論の是非は別として、自由とは一体なんなのでしょう。世界各地に豪邸を持っていれば自由なのか。そうじゃないと思うのです。

 自由とは、「足りている」と感じる心の有り様なのではないでしょうか。現在のミニマムすぎる拘置所生活に満足出来る心を手に入れることができれば、その人は永遠に自由です。その意味で、ゴーン前会長は今、人生のとてつもないチャンスを手にしているのかもしれないと思うのです。

AERA 2018年12月24日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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