作家・村上春樹さんのDJ番組への反響はやまず、まもなく第3弾が放送される。AERA本誌10月22日号で舞台裏をつづったプロデューサーが、その後の「村上ヴォイス」を届ける。
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「村上RADIO」の第3回オンエアは、街がイルミネーションで彩られ、どこからともなくクリスマスソングが聞こえてくる季節になる。春樹ファンなら、きっとデビュー小説『風の歌を聴け』のこの一節を思い出すことだろう。鼠が送ってくる小説の原稿用紙の1枚目に書いてあるこんな言葉だ。
「ハッピー・バースデイ、/そして/ホワイト・クリスマス」
主人公「僕」の誕生日は12月24日、クリスマスイブだ。
春樹さんはこの季節が大好きに違いない、素敵なクリスマスソングをたくさん知っているはずだ。そう確信し、「次はクリスマスソング一色でいきましょう」と提案した。今だから言うが、反応は正直芳しくなかった。
「どこかで1曲かければいいんじゃないかな」
いや、春樹さんの「音楽の抽斗(ひきだし)」には特別なクリスマスソングがあるに違いない。ここは踏ん張りどころだ。
「リスナーは、春樹さんならではの選曲を聴きたいはずです」
「そうかなぁ……」
春樹さんは怪訝(けげん)な表情のままだ。僕たちは華やぐ街角に、極上のクリスマスソングをできるだけ多く降らせたかった。
昨日の記憶と明日への希望を内包するのがポップスなら、この季節こそラジオの出番ではないか。DJの声とリスナーの想像力が結びつき、目の前にその人だけの風景が広がっていく。
村上DJが語るここだけの話と、ごく個人的なストーリー。小説には“ヴォイス”がなければならないと言われるが、DJとしての村上春樹さんの本当の“ヴォイス”は、時代と風景をその手触りまで伝えてくれる。
作り手である僕も、春樹さんのトークに耳を傾け、番組でかかる音楽を浴びていると、目の前の風景が立体的に変わっていく。語られる何げない日常や記憶とファンタスティックな音楽が混じり合い、風景が彩られるのだ。初回の収録準備を重ねていた7月、こんな晩があった。