「現段階で受精卵において、特定の遺伝子を破壊する技術は十分に可能と考えられる。一方で、遺伝子を修復する確率は高くなっているものの、確実ではない。変異をもつ細胞と修復された細胞が交じるモザイクという状況にもなる可能性がある」

 例えば、戦うことに適した人間兵器のような遺伝子をもった新生児を人工的につくるといったことも、可能なのだろうか。

「あくまでも可能性だが、できるかもしれない。すでにタイやブタでは筋肉が多い個体がゲノム編集でつくられている。あえて痛みや感情、知性など、本来ヒトに備わっていなければいけない機能を低下させることもできるかもしれない。ヒトの場合時間はかかるが、遺伝子ドライブという技術で、ゲノム編集した個体だけを徐々に有意に増やしていくことも可能だ」

 もちろん、単なる可能性の話で、技術の安全性や確実性は確立されていないと、大森教授は強調する。また、受精卵へのゲノム編集では、卵子や精子などの生殖細胞にゲノム編集された情報が受け継がれるため、その後の子孫全ての遺伝子に影響を及ぼす可能性がある。そのため、「ゲノム編集により生まれてくる人の同意が得られない点」が最大の問題だと、大森教授は指摘する。

 報道によると、賀氏の研究の参加者は、「問題のある赤ちゃんが生まれたら処分される」と聞かされていたという。倫理的、道徳的な問題への答えも出されておらず、ヒト受精卵に対するゲノム編集の環境が全く整っていない中での突然の研究発表だったからこそ、世界中から厳しい批判が集まるのは当然だった。

 国家主導で積極的にゲノム編集の研究を進め、世界有数の技術力があるとされる中国国内からも、今回の賀氏の研究は倫理的に問題があるとして批判が出ている。中国政府は研究を「違法」と認定して活動停止を指示し、南方科技大は何も知らされていなかったとして研究を非難した。研究の舞台とみられる病院は、双子の誕生の事実を否定した。

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