その一方で、今回の研究に国の助成金が使われていたとして、政府の関与を疑う報道もある。トランプ米大統領は中国の知的財産権侵害を問題視しているが、その一つとして海外の高度な教育や研究機関などから、コア技術を習得した優秀な人材を中国に招致する「千人計画」の関与をうたぐっている。米国の大学で学んだ賀氏も、この計画の参加者だったという情報も流れている。真相はやぶの中だ。

 多くの謎と、ゲノム編集に対する社会の不安を残したまま、渦中の賀氏は国際会議後に所在不明となっている。確実に言えることは、今回の研究発表が、各国における今後のゲノム編集研究に悪影響を及ぼしかねない事態に発展したということだ。

 前出の大森教授が語る。

「遺伝子治療やゲノム編集が危険なものと認識され、一般の方の理解を得難くなることを危惧している」

 大森教授は、法整備の必要性を訴えたうえで、研究者としての責任についても言及した。

「ゲノム編集は、医療の分野でも非常に高いポテンシャルを持つ技術だと思う。人類が手にしたこの新しい道具を、いかに上手に利用するか。我々は、個人の研究がいかに社会に対して責任を持てるのかを考えながら、社会との対話の中で研究を進めていくことが必要だと思う」

(編集部・山本大輔)

※AERA 2018年12月17日号を加筆